沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

連載「メメントモリ・ジャーニー」リンク集

隔週木曜更新で亜紀書房のWebマガジン「あき地」に連載中の「メメントモリ・ジャーニー」リンク集です。
全15回更新予定・2016年夏の書籍化を予定しています。

第1回 世界は移動を拒んではいない
旅ブログをはじめてからの変化、人生について、そして芽生えた死への興味について。

第2回 生者と死者の島
西表島のシオマネキの群れと、与那国島の広大な墓地群のお話。

第3回 標本づくりという弔い、そして伝染する好奇心
骨格標本作製サークル「なにわホネホネ団」の活動を通じて、動物の死体に宿る新たな価値のこと、そして知的好奇心の強い人からどんどん伝播していく活動の広がりについて書きました。

第4回 越後妻有、怒濤のセンチメンタル
大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ。作品から伝わる旧コミュニティの崩壊や故郷の記憶、不在感に最初はちょっとあてられてしまうが、そんな中にも未来や変化を感じる強烈な瞬間があって…というお話。

第5回 自由なハリネズミの巣箱
家や居場所の話について。

第6回 魂の向かう山、死後の住所
ミステリースポットのイメージだった恐山は、とても美しい場所でした。宿坊や、青森県美の化け物展についても。

第7回 旅人とスピリチュアル
わたしのひとり旅の天敵と呼んでもさしつかえない「旅に多くを求める人たち」について。

第8回 移動してもしなくても、世界は混ざって変わりつづける
長崎県の五島列島に散らばる宝石みたいな多様な教会群のお話です。

第9回 老いに立ち向かうための戦車
秩序のない現代にドロップキック的なものをするための戦車として、ガーナで自由な棺桶をオーダー制作することにしました。

第10回 ガーナ棺桶プロジェクト・帰還報告

第11回 遠くに行く人のお助けマン
生きものイベント「いきもにあ」への参加を通じて、生きものを介して出会った人たちのことを考えました。

第12回 ガーナ棺桶紀行(1) 大きなお守り
何がどうして西アフリカで棺桶を製作することになったのか。

第13回 ガーナ棺桶紀行(2) ポテトチップス・コフィン
何がどうしてポテトチップスの棺桶を製作することになったのか。

第14回 ガーナ棺桶紀行(3) フェスティバル・オブ・リビング・シングス
日々着々と進む棺桶製作の様子。

第15回 ガーナ棺桶紀行(4) 人生を捨てさせる装置
ガーナを離れ、隣国トーゴを抜けてベナンへ二泊三日のクリスマス旅行。ヴードゥー呪術とトラブルにまみれた忘れがたいショートトリップ。

第16回 ガーナ棺桶紀行(最終回) 棺桶パーティとヤギの骨
棺桶完成を間近に控え、お祝いをすることになった棺桶工房。金主・メレ山は、メインディッシュのヤギを市場で買ってくるように言われる。

第17回 新しい故郷
故郷の別府に帰って思うことと、これから作る新しい居場所の話。

旅と死について考える新連載「メメントモリ・ジャーニー」をはじめます

本日オープンした亜紀書房のウェブマガジン「あき地」にて、新連載「メメントモリ・ジャーニー」をはじめました。www.akishobo.com

ウェブマガジン「あき地」について
「あき地」は株式会社亜紀書房が運営するウェブ連載媒体です。子どものころに日が暮れるまで友だちと遊んだ「あき地」のように、出入り自由で、開かれた表現の場になることを願ってつくられました。ふらっと立ち寄って、好きなだけ作品と遊んで、遊び疲れたらおうちに帰る。そんな親しみやすい場所をめざしています。
トップページのバナーは漫画家高野文子さんの手作りアートです。あき地に遊びに来た子どもが、お花を摘んでいる風景だそうです。撮影は川瀬一絵さんにお願いしました。
このウェブサイトに咲いたたくさんのお花(作品)たちは、最後には単行本という形でみなさまのお手元に届けられます。
末永く、みなさまにお楽しみいただける場となることを願っています。


メメントモリ・ジャーニー - 世界は移動を拒んではいない | ウェブマガジン「あき地」
このウェブマガジンにてわたしが植えるお花は、どちらかというと巨大なウツボカズラに似ており、虫や小動物などいろんなものを飲みこんでときには消化しきれずに吐いたりしながら旅と死について考えていく予定。
前作『ときめき昆虫学』の編集者・田中祥子さんが、「亜紀書房でもなんかやりましょう!」と声をかけてくれたことからこの連載をやる運びになった。サチコさんはわたしよりずっと気合の入った旅好きで、ぜひ旅モノを読みたいと言ってくれたのだが、どうせ書くなら自分にとっても読んでくれる人にとっても強烈なフックのある旅モノにしたいなーと数日ぐるぐると考えつづけて、「そうか!旅と死だ!!!!!」と思いついたときは、会社からの帰り道で



大事なことなので2回ツイートしてしまうほどしっくりきた。

どこへ転がっていくのかよくわからないままボリュームだけはある隔週連載をはじめてしまったのだが、見たことない色の信号花火打ち上げるんや!という気持ちだけはしっかり持って書いていきます。よろしくおつきあいください。

「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」東京都現代美術館

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いろいろと物議を醸していた企画展ですが、わくわくして脳みそに涼しい風が吹くような展示だった!
「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」は都現美の夏休み企画展で、ヨーガン・レール、おかざき乾じろ、会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)、アルフレド&イザベル・アキリザンの作り出した4つのスペースをめぐりながら「○○はだれの場所?」と考える、というもの。
www.mot-art-museum.jp

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蔡國強展「帰去来」横浜美術館

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横浜美術館に蔡國強展「帰去来」を見に行った。写真は大ホールに展示された「夜桜」という作品(これだけは写真撮影可能)。
美術の知識はほぼゼロだが、京都国際芸術祭で見た「農民ダ・ヴィンチ」(中国の農民発明家が作ったギリギリな感じのロボット群)がすごくかわいかったので、横浜市美術館に来ると知ってずっと楽しみにしていた。今回の展示は、火薬を使った作品がメイン。いずれも大物ばかりなので、点数は十点くらいと少ないがいずれも迫力がある。
会場は老若男女で賑わっていた。99匹の狼のレプリカがうねり舞う作品「壁撞き」をフライヤーで見て「これは行かねば!」と思った人も多そう。中国・日本・ニューヨークと拠点を変えながら大きなプロジェクトを手がけている人気美術家だけあって、五感への訴求力がすごい。北京オリンピック開会式の視覚効果監督として超豪華な花火の演出をしたり、日本の桜や花札、中国の白磁といったモチーフはすごくベタで、一歩間違えたらすごくダサくなってもおかしくないと思うんだけど。
今回の展示の制作風景を撮ったものと、これまでのポートフォリオを現在から過去にわたって逆に振り返る「巻戻」の二点の映像も見られる。火薬を使った作品の製作風景には「これはマッドマックスや~!!」と鳥肌が立った。会場にはまだ、かすかな煙のにおいが漂っている。
映像を見ているとき、前で見ていたおばさまが花火や火薬が炸裂するたびに「ファッ?!」とか「まあ~」って小さく言ってたのが愛おしかった。
Untitled
ホールの2階では、作品を裏から見ることができます。和紙のところどころに、火薬で空いた小さな穴が空いている。

コガネムシ、タマムシ、カミキリムシ…昆虫学者渾身の美麗昆虫写真集『きらめく甲虫』

きらめく甲虫
きらめく甲虫
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丸山 宗利
幻冬舎
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趣味でイベントやツアーなどの昆虫活動をしているので、「特にどんな虫が好きなんですか?」とよく訊かれる。奇妙な生態を持つ虫も好きだが、きれいな虫も大好きだ。奈良公園で鹿のフンを食べている青く輝く糞虫・ルリセンチコガネも丸っこくてかわいいし、ヤマトタマムシは虫の本を書くにあたってどうしても見たいあこがれの虫だった。

昆虫はすごい (光文社新書)
丸山 宗利
光文社 (2014-08-07)
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数年前から展示などでお世話になっている九州大学総合研究博物館の昆虫分類学者・丸山宗利さんが、昆虫カテゴリーにとどまらず一般書のランキングにのぼるほど売れた新書『昆虫はすごい』に続いて、またしてもベストセラーの気配がある本を出した。それが『きらめく甲虫』である。著者献本ありがとうございました!
体重と同じ重さの金より高価で取引される、南米の雨霧林のプラチナコガネ。マダガスカルの銀河を体現したようなニシキカワリタマムシ。鳥でさえ食べようとしない固く黒い体に、細かい螺鈿の粒をひとつひとつ置いたようなフィリピンのカタゾウムシ。
これら金属光沢を持つ虫の美しさは、本来自然光の中で遺憾なく発揮されるものだ。この本では深度合成法*1をベースにした偏執的なライティングの技法で昆虫標本を撮影しており、ギンギラギンの虫たち約200種の輝きに思う存分酔いしれることができる。専門性に流れすぎない、しかし昆虫研究者ならではのキャプションもいちいちキマっている。

世界一うつくしい昆虫図鑑
クリストファー・マーレー
宝島社
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美麗な虫たちの写真集といえば、『世界一うつくしい昆虫図鑑』を思い出す人も多いかもしれない。
実は丸山先生はこの写真集が日本で発売されたとき、ツイッターで若干の苦言を呈していた。オブジェとしての美しさも、もちろん昆虫標本の価値のひとつだ。虫好きでない人にも昆虫の造形の美しさを広める本としては価値がある、しかし昆虫標本の脚や触角を一部もいで撮影されているものがあるのはいただけない…というような内容だったと思う。
昆虫に限らず、標本というのは「眺めて楽しむ」以上に学術資料としての価値がある。採集地や採集者のラベルがついていない標本は、どんなにきれいでも学術資料としては無価値だ。虎は死して皮を残すというが、研究者は死して論文か標本を残す。それが自分が死んだあとも他の誰かにレファレンスされ、人類が積みあげる知識の山を支える石のひとつになる。まあ学術の話は仮に置いておくとしてですよ、純粋に美的センスの話のみに集中したとしてもですよ、「この構図だと脚や触角がないほうがきれいだからちょっともいじゃうね~」みたいなのはやっぱり同意できないですよ!脚や触角のあの繊細きわまりない構造に生命が宿って動いてたってのがいいんじゃんか!繊細すぎてタマムシとかオサムシとかの標本の後脚のふ節、なんですぐもげてしまうん…もぐつもりなくてもすぐもげてしまうん…。
話がおおいにそれたが、丸山先生は昆虫研究者として、文句を言うだけでなく「本当の昆虫のうつくしさっちゅうのはな、ワイに言わせるとコレなんじゃあッ」と著作で示してきているのがこの本なんだとわたしは理解している。なんて健全な反論なんだ!
丸山先生のもともとの研究対象は、アリと共生関係を結ぶ好蟻性昆虫や、ハネカクシという甲虫である。1センチあれば超大きい虫という世界だし、ハネカクシなんてきらめくどころか前翅がすごく小さくておなかのハラマキみたいなところがほぼ見えちゃってるみたいな虫だ。先生はおそらく、きらめく虫をおとりにしてあまたの一般人を昆虫界に引きこみ、最終的には「虫って最初は苦手って思ってたけど、ハケゲアリノスハネカクシの腹毛ってすっごくセクシーだよね!」とか言わせようとしているんだと思う。恐ろしい恐ろしい。

アリの巣の生きもの図鑑
丸山 宗利 工藤 誠也 島田 拓 木野村 恭一 小松 貴
東海大学出版会
売り上げランキング: 249,130
好蟻性生物ってなにそれおいしいの?と興味をもった人には、丸山さんらが編んだ渾身の図鑑『アリの巣の生きもの図鑑』がおすすめ。

世界のタマムシ大図鑑 (月刊むし・昆虫大図鑑シリーズ 4)
秋山 黄葉 大桃 定洋
むし社
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タマムシにガチでハマりそう、という方には、むし社の『日本のタマムシ大図鑑』もおすすめ。主編纂者であるタマムシの大家・大桃先生は、『きらめく甲虫』の協力者としても名を連ねておられます。タマムシといってもヤマトタマムシやエゾアオタマムシなどの大型美麗種から、ケシツブくらい小さくて家に出たらヒメマルカツオブシムシと間違えてつぶしちゃいそうなタマムシもいっぱいいることがわかってすごく愛おしい。



そこで…昆虫標本を…爆買いする女………( ´ཀ‘)

メレ山メレ子さん(@merec0)が投稿した写真 -


最近サブでお買い物ブログをはじめて、きらめく昆虫標本を爆買いしてしまったばかりなので、よかったらこちらの記事もどうぞ。↓mereco-butsuyoku.hatenadiary.com


(2015.07.12追記)丸山先生ご自身による、『きらめく昆虫』制作秘話がアップされています。↓dantyutei.hatenablog.com

*1:対象の部位ごとにピントを当てて撮影した写真を何枚も合成し、すべてにピントが合った写真を作りだすこと

虫と躍動せよ!『虫とツーショット 自撮りにチャレンジ!虫といっしょ』(森上信夫)

虫とツーショット—自撮りにチャレンジ! 虫といっしょ
森上 信夫
文一総合出版
売り上げランキング: 445,620
著者の森上信夫さん、献本ありがとうございます!
本が売れない時代である。昔は出版社が「節税のために」めくるにも一苦労の巨大で豪華な昆虫図鑑を作り、執筆陣はガッポガッポと印税をもらったなどという夢のようなエピソードもあったそうだが、今や虫の図鑑や昆虫写真集の編纂はほとんど手弁当に近い状態で行われ、一般向けでも初版も3千部くらいあればまあいいほうだ。出版社の人も「虫…虫ねえ…」と首をひねることが多く、企画はなかなか通らない。
そんな中で、挑戦的とかそんな生易しい言葉では語れないなんかすごい本が出てきた!というのが正直な感想。内容はもうタイトルのとおりで何も説明を加える必要はない。めくってもめくってもおっさん(森上さんすみません)の自撮りwith昆虫。
ミヤマクワガタの交尾をジャマして「もうあっち行ってよ!」と言われるおっさん。
洗面所にあらわれたアシダカグモと自撮りするおっさん。
夜の公園でセミの羽化を応援するおっさん。

この本を見せた人に「この出版社は自費出版系なの?(ふつうの出版社でこの企画が通るのか的な意味で)」と訊かれたが、文一総合出版はれっきとした自然科学系出版社で『イモムシハンドブック』などのフィールドに持ち出しやすいハンドブックシリーズは商業的にも成功しているようだし、季刊誌『このは』も自然に対する視点がつまったいい雑誌だ。森上さんだってアニマ賞を受賞したれっきとした昆虫写真家で、写真絵本『オオカマキリ』などのちゃんとした(すみません)本をたくさん出されている。

虫のくる宿 (アリス館写真絵本シリーズ)
森上 信夫
アリス館
売り上げランキング: 549,997
輝かしい著書歴の中で、今回の本への系譜をなんとなく感じるのはアリス館から出版している『虫のくる宿』。虫好きでない人間にとってはホラージャンルに属するタイトルと表紙。山中の旅館に泊まって、灯りに惹かれてやってくる虫たちをこれでもかと撮影した絵本だ。
『虫とツーショット』のカバーの袖には、こう書いてある。

2013年の秋、「selfie」(セルフィー・自撮り)という言葉が、その年の、英語版"流行語大賞"に選ばれました。
「自撮りブーム」は、その後もどんどん広がり、今や、世界的な現象になったと言えるでしょう。

思わず「流行と自信マンマンに絡めてくんのやめろしーーーー!!!!!」と叫んでしまうが、躍動する昆虫写真家と昆虫そのものの生命力があいまって、なんとなくめっちゃ楽しそうな本に仕上がっているのがすごいところだ。というかだいぶくやしい。わたしだって旅日記を書いていた昔から、昆虫やカメをわしづかみにしてツーショットしてきたのに…ッ!
自撮りに使う機材や方法を紹介するページはあるが、一眼レフにシャッターリモコンは子供にはちょっと敷居が高い。森上さんに続いて自撮りを敢行してくれる老若男女はどれくらいいるだろうか。読者層がまったく読めない感のある本だが、とにかくたくさん売れてほしい。こんな本が出ること自体が出版界にとって明るいニュースだと思うし、人目を気にせず楽しそうにしてる老若男女が世の中にあふれることで世界がどれだけよくなるか知れない。

珊瑚石のお墓

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「島の死生観が感じられる場所です」と、自転車を借りたときにもらったパンフレットに書いてあったので、日が落ちる前に行っておこうとペダルを踏んだ。なかば義務感だった。
この島に来る船で飲んだ酔い止めで逆に体調を崩し、着くなり半日寝こんでしまってからというもの、なにもかも調子がおかしい。日本最西端、本当のさいはての島は奇岩奇勝で知られているが、それはつまり日本にはじめてたどり着く黒潮がどこまでも荒く打ち寄せ、人頭税の負担から逃れるために妊婦を飛ばせたという断崖絶壁が高くそびえる、とても厳しい土地だった。前にいた島の夕暮れの湾の長閑さ、潮の退いた砂地にしゃがんで息を殺して感じたシオマネキやハゼやガザミの無数の気配がとても懐かしく感じられた。
帰りの船はあとふたつ寝ないと来ないが、まだ民宿には戻りたくない。布団は毎日律儀に三つ畳みに直されているが、特にシーツを替えているわけではない。それはいいとして、あのガラスコップをかぶせた水差しの中身は交換しているのだろうか。テレビ台の中に置き去られた2年前の週刊少年ジャンプが古い紙のにおいを放っていた。たいしてきれい好きでもないくせに、神経のエナメル被覆が剥けて猜疑心が常にやすられている。こんなときは何をやったってだめだ。
墓地はとてつもなく広かった。なかば雑草に埋もれかけたおそろしく大きな亀甲墓の横にヤギがつながれていたり、コンクリートでできていたり、白く塗られたゆるやかな庇がついていたり、斜面とほとんど同化していたり、はたまた内地で見るような普通のお墓に似ていたり、いろいろだ。中でもサンゴ石の石組みがほとんど風化して、潮風にもよく耐えそうな黄色い花をあちこちにつけている古いお墓が気に入った。もしこの中で選べるならこういうお墓に入りたい。でも、今こんな仕様で発注したら、横にある新しいお墓よりも余計にお金がかかりそうだし、古色がつくにもずいぶん時間がかかるだろう。
いや、別に入りたくもないかもしれない。どちらかといえばこのサンゴ石のひとつになって、コケやカニや小さなハブにすみかを提供しながらちょっとずつ風雨にさらされてちびていくほうがいい。でもここにはもう石がいっぱいあるから、やはり献体で使えそうなところは使ってもらうのがいいだろうな。死んだあとなら、切り刻まれても大丈夫。やっぱり死んだあとのことを考えると気分が落ち着く。
気がつくと日がだいぶ傾いていて、お墓のど真ん中、死者の王国の中でお化けが寄ってきそうなことを考えているのがいきなり怖くなってきて、わたしは自転車に飛び乗った。死について考えるのはそうでもないが、お化けは怖い。お化けに与えられるかもしれない危害よりも、お化けは死んだあとにも気持ちが残ることを前提にしているから、そんなものを見てしまったら永遠に続く苦痛があることがわかってしまうからすごく怖い。