メレンゲが腐るほど恋したい

旅行記や生きものの話を写真多めの長大な記事で送ります

メレ子と地球の歩き方

「俺この前バックパック一つでインドに行って来てさー、日本とはあらゆる意味でもう別天地な訳。交通ルール一つとっても違うのよ。日本ではクラクションって(中略)そういう所に行くとホント今までの価値観が崩されるっていうか、人として柔軟に(中略)…俺は本当にこのインド旅行で成長したと思う(結論)」
メレ子は着座十分にして座るべき席を間違えたことを悟った。鶏の軟骨唐揚げ苦虫和えを無表情に噛み潰す。今かの女の隣で武勇伝を滔々と披露し続ける男、こういう地球の歩き方野郎には全くろくな奴がいない。
(楽しむ為でなく成長する為に旅に出るとは旅に失礼であろうに。何が失礼って、そういう目的意識の奴に限って成長して帰って来た試しがない。要するに価値観を破壊される快感と漠然たる成長なるものを混同しているのである。そもそもいつから成長は自己申告制になったのか。宴会で隣り合わせただけの女に平凡な武勇伝を語るという自慰、要するに彼もまた楽しむ為に旅に出たのであり楽しむ以上のことはしていないのである。しかし馬鹿の自慰を手伝わされるのはちょう不快)メレ子が夢想に耽っている間、男は横顔で語る練習をしていた。横顔しか見せていないのでメレ子の冷めた表情や憎悪をこめておてもとを引き裂く指先は目に入らず、メレ子の「へーすごいね自動音声応答システム」は予想外の効果を上げていたが、かの女は悲劇的にも気付いていない。
メレ子が味覚以外の感覚を封鎖してから一時間が過ぎた。宴もタケナワという頃合である。仲の良い友人が陽気に乱入してきたので、メレ子も現世に戻り会話を楽しむことにした。男は武勇伝を中断されて憮然とするが、愛想良いメレ子を見て「なに何?メレちゃんて下ネタ平気なヒト?」と絡んできた。不自然に空いた沈黙に「俺も昔は結構やんちゃしたけどさー」と割り込む男。「やっぱり女はラテンだよね!」薄いエピソードが強引すぎる結論に着地するのを待ち、メレ子は吐き捨てた。
「今度は恥丘の歩き方かよ」