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メレンゲが腐るほど恋したい

旅行記や生きものの話を写真多めの長大な記事で送ります

さわやか三組

昨今のいじめ問題を見るにつけ、思い出すことがあります。最近の子は「高い」「ダサイ」「ツブシがきかない」など一々もっともな理由でランドセルを買わず、汎用性のあるバッグで通学なさるらしいが、わたしの小学校はランドセル一辺倒それも男子は黒/女子は赤と相場が決まっていた。たまに黄色やピンクがいると「ヤー、坂本のランドセル変ダー」と異物排斥の対象に…。ただひと味違うランドセルの子は比較的おしゃれでかわいらしい子が多く、からかいも嫉妬半分好意半分だったかもしれない。お下がりなどの都合で「女の色」を余儀なくされた男子は悲惨の一語に尽きる。
というわけでツチヤ君のランドセルもオーソドックスな黒だったのだけど、小学五年生のある日、朝の会が終った後にツチヤ君が
「俺のランドセルがなーい!」
と叫んだことで教室は一気に緊張。ツチヤ君はいわゆるお調子者でおふざけが過ぎることもあったから、事態を重くみた担任によって算数の時間は急遽HRに変更され、質問を経てランドセル探しタイムに…。各自うしろの棚からランドセルをひっぱりだして名前を確かめたりゴミ箱をあさったり教卓の下に潜ってみたり、捜索とは妙に心踊るもので、無意味に「バーロー」と連呼したくなってくる。先生は厳しい顔で焼却炉やトイレを探していた。
次の時間から、涙ぐみながら隣の子の教科書を見せてもらうツチヤ君。ランドセルを隠されるという途方もない悪意、まわりの目に晒される心境いかばかり…わたしは非日常に興奮しつつも、ちょっぴり彼に同情した。もはや教室に正義はないのか?秩序のない現代にドロップキックを!
給食の時間、先生が笑顔で現れた。手には黒のランドセル。
「あんたやっぱり家に忘れてたんじゃないの!お母さんが持って来てくださったんよ!」
教室は爆笑に包まれた。ツチヤ君も顔を真っ赤にして笑っていた。自分がバカであるという事実は先々かなり人生に影を落とすかもしれないが、自分が憎まれているという事実よりはかなり幸せだと思う。先生もいじめ事件だった場合の処理に心を痛めていたらしく、叱りながらも頬が弛んでいた。わたしたちにしても算数の時間がつぶれてハッピーだ。かくして教室に平和が戻ったのである。
「いやーそれにしても何でランドセル忘れるかねえ…普通なくしたらなくすまでの行動を振り返るダロ」と考えながら買い物に行ったら、スーパーに自転車置いて来ちゃったよ、テヘッ!バカがどうやって世の片隅で生きていくかについて、今ツチヤ君と語り合いたい。「おバカですかー!わたしは、バカでーす!」と雪山に向かって岩井俊二風に叫ぶの。