メレンゲが腐るほど恋したい

旅行記や生きものの話を写真多めの長大な記事で送ります

ハッピーセット、ハッピー抜きで

メレ山メレ子、マクドナルドで「ハッピーセットのナゲットセット、おもちゃ抜きで!」と注文するのが好きな童心ブロガー。しかし過去に一度「ハッピーセットのナゲットセット、ハッピー抜きで!…今のなしで!」と言ってしまったことがあるため、その発音は無駄に注意深くなり、清潔に髪をまとめた店員の曖昧な微笑を誘った。
駅前の人込みを見下ろす窓際の丸スツールに腰かけ、首尾よく手に入れたナゲットを頬張る。食欲を満たすかたわら、ドナル度チェック―トレイの敷紙に印刷されていて、ドナルドの対外的活動をアピールしつつ■趣味がいっぱいある■スポーツが好き■友達が多いなどの項目チェック数に応じてドナル度すなわちコミュニケーション能力値を計ってくれる―に興じるのも大きな楽しみのひとつだ。というのは嘘で、はてなモバイルを激しくリロードしては「週末一日サーバメンテナンスした後の方が重いって!うんこ!運営のうんこ!」と模範的なはてなダイアラー的行動をトレースする。
エラーを返すばかりの携帯に見切りをつけたところで、先からいた右手の男女の会話が耳に入ってきた。男は「マリちゃんもタクも来れなくなっちゃったみたいだしさ、どっか行く?どろろどろろ見たくね?カラオケでもいいしさー。それとも水族館とか行っちゃう?」と女をしきりに誘っているが、女は物憂げに生返事をするばかり。次第に男は焦れて、おそらくは次の遊び場で切り出すつもりであったろう繊細な話題に切り込みはじめた。
「お前はさー、俺のこと好きか嫌いかで言ったらどう?好き?オア、嫌い?」
席が近すぎて二人の様子に目をやることははばかられたが、メレ子は視覚以外のすべての感覚を横に集中させた。他意はない。風車に挑むドン?キホーテに、数世紀の時をこえて人は魅力を感じるのだ!そして、この時はじめて女も、男に正面に向き直る気配があった。
「嫌い」
メレ子は、身震いを抑えながら、オレンジジュースのストローを噛み締めた。精神感応者ならざる彼女にも、女の忍耐の緒がいくつかの繊維に分かれてぷちぷち弾ける音が聞こえるようだ。だがキホーテは怯まなかった。
「えー(笑)嫌いとかちょう傷つくし!じゃーあー、好きか普通かで言ったらどっ」「き ら い」
ズズー
おとずれた沈黙に耐えきれず啜ったストローが空気とジュースを撹拌して大きな音を立ててしまう。呼応してビクッとするメレ子。横の男女の視線を右頬に突き立てながら、目を不自然に見開いて三越前のライオンを庇護を乞わんばかり見つめながら、メレ子は思った。「この男の人はハッピー抜きのハッピーセットを頼んだんだわ…」