メレンゲが腐るほど恋したい

旅行記や生きものの話を写真多めの長大な記事で送ります

戦慄の「なんか面白い話しナイト」

ここは場末のネットカフェ。終電を逃した若者が酔いつぶれ、オンラインゲームホリック達が個室に立てこもる平日の遅番はバイト達のくつろぎタイムである。
「メレさん、この前女の子たちで中華食べに行ったらしいじゃないですか。いいなー」
今夜の遅番相棒、ホリ(大学三年生)が客の忘れたカードのポイントでじゃがりこを精算しつつ話しかけてきた。メレ子は連絡ノートに目を落としたまま答える。
「いや、それがミカちゃんが『お店はどこでもいいから適当に決めて』っていうからね。三千円くらいの中華を予約したわけですよ。そしたら席に着くなり『あたし辛いのムリー』って叫ぶわ、エビチリの上のネギを鼻にしわを寄せてひとつひとつ除けるわ、『最後はご飯もので締めたいよね』って言うんで『腸詰チャーハンはどう?』って言ったら『えぇ〜…腸詰って…内臓って感じ?』ですよ。『腸詰ってソーセージのことだよ!ミカちゃんソーセージ嫌いなの?っていうか何その内臓忌避!』って言っても『ん〜〜』って、もうあの女とはメシは食えませんね…」
「そ、それは災難でしたね…」
しばらく沈黙が続いた。
「じゃあホリ君、わたし暇だしちょっと漫画でもとってk」
「あー、暇だなあ。メレさんなんか面白い話ありませんか?」
(なんという最低な無茶振り…!)メレ子は背筋を冷たい汗がつたうのを感じた。ホリは無邪気な顔でお菓子をむさぼっている。
「人間、引き出しが必要ッスよぉ。なんか一つくらい探せばあるもんでしょ、面白い話〜」
煽られている…メレ子は意を決して顔を上げた。
「じゃあ、わたしの友達の話でいいですかね…

彼はコンビニでバイトしていたんですが、万引きにはやっぱりどこの店も悩まされていて、特に万引きが多いの何かわかります?コンドームです。色気付きはじめた青少年が度胸試しと称して盗んでくらしいんですけど、笑えますよね。コンドームをレジに出せないハチドリサイズのハートで何が度胸試しかと。
まあ、それで盗まれっ放しにもできないので、苦肉の策でタバコなんかといっしょにレジの後ろの棚に置いて、訊かれたら取って売るということにしたんです。買う方にしてみればちょっとハードル高いですけど。
で、ある晩におとなしそうな女性が来て『あの…ここは…コンドームって…置いてないんですか?』って恥ずかしそうに訊くんですって。バイトの彼としては不意をつかれたというか、羞恥心が伝染したというか、要するにテンパってしまった。他にいくらでも言いようはあったと思うんですけど、『あ、はい、置いてます!どれをお取りしましょうか?』って言っちゃったんですよね。そうしたら彼女ももうすごくテンパっちゃって、しばらく真っ赤になってて。気まずすぎる、かつ長すぎる沈黙が続いて。それで最終的にこう言ったわけですよ。

『ち、小さいのでいいんです…!』

…」



「…あ、終りですか?」
「おわりです!」
「あぁ…」
「つまらないですか!いちばん自信あった話なんですが!」
「あ、いや…なんかその、彼氏の立場を考えると複雑ッスよね…」
「もうなんか色々しょっぱくてたまらんっていうか、思い出すたびに人間愛が胸にあふれ大好きな話なんですけど…ホリ君はあまり楽しめなかったみたいですね」
「いや、ちょっと笑いどころを逃しただけで!面白かったですよ!ふぅ…なるほどね…」
メレ子は失望を隠せなかったが、すぐに体勢を立て直し反撃に転じた。
「じゃあ次は引き出しの豊富なホリ君が面白い話をする番ですよね。楽しみでたまりませんよ」
「えっ、俺ですか?」
「ハァ?あんだけ煽っておいて自分は持ち合わせがないとでも?こりゃあびっくりだ」
「…分かりましたよ!言っときますけど、かなり面白いですよ…覚悟しててくださいね

俺の友達がツレと歩いてたら、障害者の人がいたんですよ。そしたらツレが真似をしだしたんです。やめろって言っても、ツレは馬鹿なもんでやめないんです。そしたらすごいコワモテの人がやって来て、『お前なんてことやってんだ!今すぐやめろ!』って言って障害者の人のほうを殴った


…」
「…」
「あれ?メレ子さんはもうしょうがないなー。ここが笑うところですよ」
「何年前からある小話だと思ってるんですか…」
「え!?」
「いやいいよ。もういい。お前のアンテナの低さはもう分かったよ。清掃に行って来ます」
メレ子は肩を落としてトイレに向かった。自分はこの闘いに勝ったのか負けたのか。それは分からないが、非常に不毛な時間を過ごしたことは確かだ。そしてもう一つ確かなのは、「なんか面白い話しろ」という振りだけはしてはいけないということだ。