沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

琉球神話のはじまりの島で、猫に粘着されつつウミヘビ汁をすする

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”呼ばれた人しか行けない”と言われる神の島が沖縄にあるという…
そんな話を聞いて「てめえの勝手で行っておいて呼ばれたヅラとはとんだスピリッチャルの押し売りだぜ!その欺瞞、アタイが正してみせるよ!!」と拳を握り、呼ばれてもないのに行ってまいりました。久高島(くだかじま)というその島では民俗学的に重要な秘祭が行われ、立入禁止の場所も多いですが琉球神話の習俗を見てまわることができます。外洋に向けてひたすら広がるサンゴ礁、そして名物のイラブー(エラブウミヘビ)汁など、琉球神道以外のポイントも満喫できました。

琉球王国最大・世界遺産斎場御嶽(せーふぁうたき)

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久高島には沖縄本島の南東部にある安座真(あざま)港から渡ります。フェリーに乗る前に、久高島とは切っても切れない関係にある斎場御嶽を訪ねておきましょう。安座間港から15分ほど歩いて、「緑の館・セーファ」という施設で入場手続きをします。
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御嶽(うたき)はこの日記でも西表島竹富島のものを載せたことがありますが、琉球信仰の神社です。本土の神道よりさらに自然崇拝色が残っていて、人工物はシンプルな祠のみが基本。沖縄にはすごくたくさんの御嶽があるらしく、那覇市内の御嶽でも線香や紙を使って御願(うがん=御嶽への参拝)をしている人を見かけました。線香はともかく、紙はどう使うんだろう。
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敷地内には緑が生い茂っています。下のは戦時中の爆撃によってできた池。
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セーファ御嶽というのは通称で、「最高の御嶽」という意味があるそう。琉球王国の最高神職である聞得大君(チフィジン・きこえおおぎみ)の就任の儀式がかつてここで行われました。チフィジンには王族の女性が就任することが多かったそうで、伊勢斎宮みたいなものと考えればよさそうですね。このでっかい岩は三庫理(さんぐーい)という雑誌などでも有名なスピリッチャルスポットの入り口です。オーガニックなヘンプの服を着て瞑想をキメてる女性などもいたよ…
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なんちゅうでっかい岩だ!
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トンネルを抜けるとこんな感じになっています。
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遥拝所からはこれから行く予定の島を実際に見ることができテンションが上がりますが、この眺めは後から岩が崩れたことによって得られるようになったものだそうです。
久高島は琉球を開いた祖神アマミキヨが降り立って国づくりをはじめたという、琉球神話のはじまりの島です。もともとは国王とチフィジンが久高島に渡って礼拝していたのが、斎場御嶽から久高島を遥拝する形になったんだとか。


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御嶽の入り口の手前にはおしゃれカフェもあり、御嶽の駐車場へ続く渋滞を眺めながらタコライスを食べる。観光客で大賑わいですがみんなが神社や森林が好きというわけではなさそうで、神社・森林・スピリッチャルに関心がない人は行くのをやめるとみんな幸せになれるのに…

呼ばれずとも行ってやる久高島

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斎場御嶽でいろいろ事前知識を仕入れて予定通りに久高島への憧れを高めたところで、安座真港に戻ってフェリーに乗りこみます。「呼ばれないと行けない」というのはこのフェリーが天候により運休になることを指しているのかと思われますが、少なくとも今日は問題ないようです。行きにくさで言えば和歌山の廃墟島のほうが呼ばれないと行けない度はよほど高いと言えましょう。それにしても誰に呼ばれてるつもりなんだよ…(ブツブツ)
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主に日帰りの海水浴客を乗せた船が問題なく港に到着。
島内はよそ者立入禁止の場所が多く注意が必要と聞いたので、安座間漁港の売店で久高島の地図を100円で買ったのですがこれがなんとも味わい深いの一言。標準語と琉球語が7:3くらいの割合で伝説や習俗についてビッチリ書いてありますが、印刷はところどころ切れてるわ逡巡がそのままメモされているわで読めば読むほどわからなくない。
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但し、「遺老説伝」によるとシラタルーの長女が島のノロとなったとあり、時は英祖王統であることからアマミウヤヌルの前と考えるのが妥当である?アマミキヨとシラタルーはやはり関係深い????

????ってなるのはコッチだよ!
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しょうがないので久しぶりに自分なりの地図を描いて見ましたが、描いているうちに感想も何もぐっちゃぐちゃなことでは公式マップに迫るものになりました。久高島は周8kmの細長い島なので遭難の心配はなくてよかった…

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まずは本日の宿「にらい荘」へ。
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おばあちゃんに母屋の裏の階段を上がるように指示されます。沖縄の民宿はこういう開放的なアパートみたいなところが多くて楽しいですね〜
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「おまえも洗濯してやろうか」
宿の裏に島猫がたくさんたむろしている。沖縄はどこに行っても猫まみれです。環境問題的には微妙な面もあるようですが、猫にとっては過ごしやすい環境なのでしょう。

果てしなく広がるイノーと、12年に一度の秘密の儀式が行われるフボー御嶽

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港のそばでレンタサイクルを借りて島内一周に繰り出す。島内一周道路は片側が防風林としてのフクギ並木、もう片方は半ば荒れた農地となっています。
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島内にはいくつか宿泊施設や売店はあるものの、驚くほど観光地化していません。標識のたぐいもほとんどない。とりあえず外洋に面した浜に降りてみると、ずっと向こうまでサンゴ礁(イノー)が広がっています。白い波が立っているところがイノーと外洋の境目。
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透明な水の中に、あやしいナマコがぐねぐねしている。
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クモヒトデタカラガイがいます。ティラジャー(おいしい貝)を大量に食べた痕跡も。
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もちろん砂浜はみんなサンゴ石。
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でっかいシャコ貝を見つけて大ハシャギのわたくし。すでに日焼けが進行している…あ、島のものは持ち出しちゃいけないという話なので行かれる方は気をつけてください(シャ、シャコ貝なんて全然欲しくないんだからね!)
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この浜にニラーハナー(海の向こうの神々が住む理想郷)から五穀(麦や粟など)のつまった壷が流れ着いたと言われています。人もほとんどいなくて最高!


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さらに北へ自転車を進めると、舗装されてない道になってくる。カベールという北東端の岬に向かう道です。アマミキヨが降り立った場所という伝説があります。
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カベールの植物群落は貴重なものらしいが、どれが貴重なやつでどれがそうでないのかはまったくわからなかった…なんだか沖縄の空はすごく近く感じます。


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御嶽への道がわからず右往左往する。
猫「よそ者が御嶽に何の用ぞね」
用は特にありませんが秘密の儀式に興味があります!
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奥にある円形広場はイザイホーやフバワク行事などの祭祀場となっており、人々にとって最高の聖域です。何人たりとも、出入りを禁じます。

いまだかつてないくらい禁じられた!ワクワクするな〜 この奥にタピオカが食べ放題のワンダーランドが…(禁じられたため、勝手に都合のいい場所を妄想)
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この小道の奥にあるという森の中の円形広場では、12年に一度「イザイホー」という儀式が行われます。島で生まれ島の男に嫁した30代以上の女性が、ニラーハナーからの来訪神に資格を授かり、神人になるんだそうです。しかし現在はその資格を満たすものがおらず、1978年を最後に実施できていないそう。


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御嶽を離れてウロウロしていると、崩れかけたサンゴの石垣を発見。地図には「てぃみ城」とあるのでグスクの跡なのかな?
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メレ子「アンコールワットのガジュマルに飲みこまれつつあるタ・プローム遺跡みたいね〜」
カタツムリ「大きく出たな」

海を眺めながら島名物「イラブー汁」を食べよう!

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日没も近くなってきたので、いったん探検は切りあげて夕ご飯にすることになりました。島の名物は海ぶどう、もずくなどですが…
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いちばん有名なのはイラブー(エラブウミヘビ)です!(ドーン)
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「アンタ、この海辺の席はどうだい」
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「へへ、お待ちしてやしたぜ」「どうぞどうぞ」
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猫たちのぎらつく視線を感じながら庭の席に座ります。
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まずはもずく天ののった沖縄そば。おいしい!
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さらにイラブー汁をオーダー。ワーイ!食べてみたかったんだよね〜。ヘビをぶった切ったままのワイルドな見てくれも二重丸です(ブログ的な意味で)
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いったん燻製にしたものをスープで戻しているイラブーはトロトロしていて、ヘビならではの細かい骨も気になりません。濃いかつお出汁みたいな味で、いかにも滋養がありそうな感じでおいしいです(きっとすごく煮てあるので、どこまでがイラブー本来の味かはよくわからない)
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猫「お味はいかがですかね」
メレ子「おいしかったよ〜」
猫「お客さんにいい加減なもの出すわけにいかんからちゃんとチェックせんといけませんね。ピチャピチャ」
食堂のおばちゃん「コラッ」
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メレ子「とんだ毒見役だな」
猫「あー、背中は弱いからやめてぇ〜」
イラブー汁は那覇の市場などでも食べることはできますが、久高島のイラブーは特別おいしいのだそう。島の南にはイラブーが月夜に産卵する洞窟があり、昔は島の祝女(ノロ=巫女)やイザイホーで神女となった者だけが久高島イラブーを獲ることを許されていたのだそうです。洞窟でイラブーの泳ぐ音のみを頼りに、ハブの数十倍の毒をもつウミヘビを素手で獲るのだとか!毒牙が口のかなり奥に生えていること、また攻撃的なハブと違ってかなり大人しい性格らしいですが危険には違いありません。そんな漁法でとったイラブーだと思うと、美味しさも格別ですね。


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本島に陽が沈んでいきます。太陽神を崇拝する琉球信仰では、陽の昇りは祈願の対象ですが陽の入りは拝んではいけないそうです。
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「われら毒見三兄弟」
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「ばあちゃんが味付け間違えんようにちゃんと見はっとらんとな!」
宿に帰ってくるとこっちでも猫たちが毒見を買って出ようとしていた。

祭祀が根づいた集落を歩いてみる

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翌朝も早くから出発しました。人口200人程度の島だけど立派な学校があるな〜
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集落の中の広場に面して建っている外間殿(ふかまでん)。久高島にはノロを輩出する家が二つあり、ここでは外間ノロによって旧正月や収穫祭などの祭祀が行われるそうです。
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建物も公民館??って雰囲気だし、中をのぞいても香炉などが置いてあるだけで非常に殺風景ですが、儀式を行う上でとても大事なものらしいです。
尚真王が16世紀に祝女(ノロ)制度を体系化したといいます。それまでに共同体レベルで祭祀を行っていた巫女達を公務員化し、その頂点として首里城に聞得大君(チフィジン)を置いたわけですね。ちなみにユタはこの系列に属しない在野の霊媒師で、独自に相談料をとってマブイをこめたりしてる人のことを指すみたい。中央集権を進める上ではユタは邪魔な存在ですから、中央政府から弾圧を受けることも多かったようです。
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集落の中にそれっぽい施設が点在していますが、説明等は一切ないので何もわからない。たぶんわからせても仕方ないという意識があるのではないかと思う…。島民ガイドを頼むこともできるそうなので、そういう場では教えてもらえるのかもしれませんけどね。
イラブーの燻製小屋を見たかったのですが場所がわからなかった。イラブー漁の寡占は祝女の収入源との側面もあったようです。


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島の西側には、神女が精進するための井(カー)が点在しています。しかし階段が派手に崩れていて降りられないところもあった。まわりの土が崩れちゃってコンクリも支えられなくなるんだろうなあ…
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ここは補強されてるのでなんとかいけそう。それにしてもきれいな海!
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カーと呼ばれる場所は首里近辺を含めていくつか見ましたが、現役できれいな水が出てる場所はあんまりなかった…昔は出てたのか観念的なものなのかなー。いずれにしても真水の少ない土地ですね。
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短い滞在だったけどのんびりできていい島だった!


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メレ子「呼ばれなくてもまた来たいわ〜」
猫「呼んでないので来ないでください」
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漁港でぜんざいを食べて、本島南部めぐりに出たのでした。
次回はおきなわワールドでのヘビのお勉強やガジュマルの大樹、そして糸満ウリボーの大脱走劇について書く予定です。

斎場御嶽・久高島 -a set on flickr-