沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

キリシタンの島で、宝石みたいな天主堂群とかわいい休火山をめぐる

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▲貝津教会のステンドグラス
五島列島長崎市の西100kmに位置する島々です。釣りや自然が豊かなので有名なところですが、キリシタンの歴史とも深い関わりがあります。キリスト教は当初は領主の庇護下、最初こそジャンジャンバリバリで根づいたものの、豊臣秀吉徳川幕府の禁圧を受けることに…信徒達は、比較的禁制がゆるいと言われた五島にあいついで移住しました。しかし明治初期には「五島崩れ」と呼ばれる最後の大弾圧が行われ、死者を出しています。
やがて禁教令が解除されると、花の開くがごとく数多の教会が建てられ、いま五島に存在する教会の数はなんと50!とてもすべてはめぐりきれませんが、それぞれ個性ある教会ばかり。静かな漁村に建つ古い教会は、なんだかヨーロッパの田舎みたいな風情です(ヨーロッパ行ったことないけどな!)。今回の福江島編だけでも五島の教会の多彩さの一片は伝えられるのでは。宝石のような教会建築だけでなく、散策にピッタリの休火山やおいしいものの話もしますよー!
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▲港を見下ろす水ノ浦教会の墓地

教会見学について

  • 教会は観光資源である前に住民の生活の場なので、マナーを守って見学してください。
  • 写真はできるだけ教会の方にごあいさつした上で、お祈りしている方がいないときに撮るようにしましたが、問題ある場合、関係者の方はご連絡ください。

海に向かって建つ教会でキリシタン弾圧の歴史にふれる

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今回行った福江島は、五島列島の中では中通島と並んで大きな島。南側の下五島と呼ばれるエリアになります。長崎港からジェットフォイルで一時間半、福江港に到着しました*1。行きたい場所を絞りこんだ結果、運転弱者メレ山でも今日はバスで観光できそうということで、まずは五島最古の洋風建築である堂崎教会へ。奥浦という入り江のはじにあり、行った時は盛大に干潮になっていました。
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外はレンガ造りで中は木造の重厚な建物。
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堂内は撮影禁止のため、内部写真のポスターを載せておきます。
現在はカトリック資料館となっていて、祭壇の前に様々な資料が並べられていました。宣教師たちが伝えた書物から、踏み絵やこっそり拝むためのマリア観音なども。
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満潮時だときっともっと幻想的…堂崎教会は信徒が船でミサに来られるように海に向かって建てられていて、当時は鐘ではなくホラ貝でミサの合図をしていたそうです。正装してボートでやってきた信徒たちのパナマ帽がいくつも松の枝に引っかけられている写真が印象的だった!
福江藩大村藩のあいだの取り決めにより、本土の外海(そとめ)地区から数千人のキリシタンが五島に移住しました。そのころ五島はあまり禁令がはげしくなくて、信徒たちは「島へ五島へとみな行きたがる 五島やさしや土地までも」と歌いながら移住したのですが、住んでみればよい土地は先住民のもので荒れた山間部を苦労して拓くしかなく、差別をうけ年貢はきびしい…ということで「五島極楽来てみて地獄 二度と行くまい五島が島」に歌いかえられたといわれます。
以前に民俗学に詳しい方から「隠れキリシタンのコミュニティは今も連綿と続いているんですよ」と聞いてヒェーと驚いたものですが、納戸にキリスト像やマリア観音を隠して拝んでいたものが、「納戸教」として独自の進化をとげ、一部はカトリックともはや相容れない別の信仰になってしまったということのようです。カクレキリシタン*2のお話については、「カクレキリシタンの人に会う」のページが詳しいです。
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そばの建物には謎の民俗資料館も。どこの観光地も、こういう「納屋に残ってたものを並べてみました」的資料館にはこと欠きませんな〜

港を見下ろすカトリック墓地

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いったん福江港に戻り、またバスに乗りかえて水ノ浦教会にやってきました。先ほどの重厚な堂崎教会と対照的に、こちらはとても繊細でかわいらしい教会ですねー!
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中もパステルカラーでまとめられています。
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貝でできた聖水盤。司祭さんが祝別した聖水が入っていて、指を清めて十字を切ったりするらしい。ちなみにわたしの出自はエセ仏教徒で浄土宗だったか浄土真宗だったかもあやふやなレベルなので、あまり詳しいことはわかりません…。
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この教会は鉄川与助という五島出身の天主堂建築の巨匠によるものです。実はさっきの堂崎教会の施工にも関わっていて、教会だけで30あまり手がけています。日本の教会建築に多大な影響を与えたそうですが、ご本人は生涯仏教徒でした。
こうもりの羽のような天井は、リブ・ヴォールトといって、ゴシック様式を代表する構造。小さな建物の内部を特別な空間にしてくれています。本来は石造りの建物を支えて光を入れるために生み出された様式なので、軽く長い柱と梁を作れる木造建築では不要なのですが、外国人宣教師から教会建築を学んだ与助の工夫が結実しているわけです。
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この聖母マリア様、五島をめぐった中でも本当にかわいらしくて印象に残っています。この素朴な表情、すてきだわァ…
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教会の裏の高台には信徒の墓地があります。
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仏教のお墓に似ているけど、十字架のマークやタイル装飾がほどこされているのが不思議な感じですね。
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上の方に登っていくにつれて、お墓も古いものになっていくらしい。
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お墓にかけられたロザリオ。その昔ロザリオは信徒たちにたいへん人気で、その欲しがりっぷりは宣教師が困惑するほどだったとか…そりゃわたしも信徒だったら欲しいよ!宣教師さんたちの見こみが甘かったと言わざるを得ないね…資料館にはジュズ玉(よく川原とかに生えてる植物の実)で作ったロザリオもありましたね。

堅牢な高校と、五島のグルメ「五島牛

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墓地に夢中になりすぎて時間がきてしまい、今日の教会めぐりは終了。福江の町に戻ってきました。たばこは好いちょらんで申し訳ねえ…
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町中にはこのようなリッパなお城が。
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と思ったら高校ではないか!堅牢な高校だなー
@nifty:デイリーポータルZ:防御力の高い高校
なんだか見たことがあると思ったらデイリーポータルでも取りあげられていた。しかし高校生活においては敵のだいたいは高校内部にいるため、むしろ生活の場が家と高校にしかないことが問題を根深くしているため、高校そのものの防御力は問題にならないのです!(ドーン)
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とはいえ、「コバヤシくん、今日の放課後…二の丸東面の多聞櫓に来てくれるかな?」などというスイートな高校生活とか、授業をさぼって天守閣で音楽を聴いたりする高校生活が送れそうで夢がふくらみますねー(メレ山はウブな高校生だったのでまじめに勉強ばかりしており、高校をさぼったことは一度しかありませんが…長崎であったスピッツのライブに行きたかったんだねェ…)
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五島猫「ゴタクはたいがいにしてごはんの話をしてもらえますか?」
すみません…五島といえば魚も有名ですが、五島牛という美味なる牛がいるそうです。「味よし」とは大きく出たな…そりゃまずくても「味あし」とは名のれまい。このハード・トゥ・プリーズなブロッガーに「味よし」と言わせることができるかな?
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すみません、めっちゃ美味しいです…。焼肉を食べると脂に負けて気持ち悪くなってしまうこともあるのですが、この骨付きカルビは脂たっぷりなのにしつこさがまるでなくて、そう…言うなれば…言うなれば…まるで肉じゃないみたいなのー!!!!!
もともと肉好きでない人間が肉をほめると肉の存在を全否定しているかのようなニュアンスになってしまいがちですが、周囲の肉好きっ子たちもおいしいおいしいと食べていたのでオススメできます。お値段もリーズナブルで、うんまかよ〜

五島の教会群は…みんなちがってみんないい!

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翌日はバスで三井楽(みいらく)という地域に向かい、そこからタクシーで2つの教会に連れていってもらうことにしました。他にもいろいろと行きたいところはあるのですが…フォルムだけ見ると公民館的な感じもする背の低い建物、こちらが三井楽教会です。地元の人には岳(たけ)教会のほうが通じやすいです。
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このタイルや小皿を使ったモザイク、タイのワット・アルンを思い出します。この教会堂は1971年に現在の建物になったそうなので比較的新しいのですが、きっと信徒の人たちが協力して装飾したのでしょう。
「信徒でもないメレ山、わりと普通の近代的教会に来てどうするの?」と思われるかもしれませんが…、フフフ、中をごらんください!



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祭壇にむけて傾斜のついた天井、聖書のエピソードが書かれた壁画、赤くライトアップされたキリスト像、そして泡のような照明…すべてが斬新ですばらしい!ここの写真をネットで見てから、絶対に行くと決めていました。
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カニのステンドグラスがかわいい。このステンドグラスは島出身の篤志家とボランティアの協力で近年入ったものだそうです。どの教会も、過疎などの厳しい現実の中、とても大事にされています。岳地区に弾圧の手が伸びたときはむごい拷問が行われたそうですが、そういう時代を乗り越えて建てた教会だからというのもあるんでしょうね。


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福江島で最後に訪れたのは貝津教会。小ぶりでシンプルな教会です。フランスの田舎の教会的なたたずまいがあるねー(フランスって行ったことないけどさ…)
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こちらはステンドグラスが綺麗なので有名です。
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三井楽の精巧なステンドグラスに対して、古い教会のステンドグラスはだいたい木枠に色ガラスをはめただけの簡易なつくり。そのため傷みやすくもあるのですが、木造の教会に合った質素な美しさがあります。
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教会の後方にはだいたい二階席?みたいなものがあって、ここでは特に禁止されていなかったのでのぼることができた。天井や柱のモチーフもいいですね。


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帰りのバスまで時間があったので、タクシーの運ちゃんは気をきかせて「遣唐使ふるさと館」と焼酎工場のあるところで下ろしてくれました。せっかくなので焼酎工場の中(休憩中なのか無人)をガン見しつつ、しかしガブ飲みしているのは水。
メ「肉をほめるとき『肉じゃないみた〜い!』っていうのも問題かもしれないが、酒をすすめるときに酒好きのいう『水みたいで飲みやすいから』もたいがい問題だよな!水からわざわざ酒をつくっといて水みたいって、醸造工数全否定ジャン…」
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工場の近くの湾。すごい勢いで潮が引いています。滞在中はひどい黄砂でまったく晴れた気がしなかったのですが、春霞も悪くはないなと思える光景。
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しかしタクシーの運転手さんは「中国ってきっとひみつの核実験もやってるんですよね、黄砂にのってそういうものもやってくるんじゃないかな…」と心配そうだった。
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空腹に耐えかねて盛大にズリこける。教会に感動していたことも忘れ果て「信仰じゃおなかふくれないよ…」とブツクサ言っていたそうです、これだから三次元の女は…(主語が大きい)

かわいい休火山を散策して島を一望

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お昼は福江港近くの「うま亭」なるお店で五島豚のトンカツを。ここでも「”うま亭”って、そりゃまず亭とは(略)このハード・トゥ・プリーズなブロガーに(略)…うま亭ーーー!!」とか言っていました。俺様の舌がイージーなわけではなく、ちゃんぽんも名物らしく大にぎわい。教会めぐりをしている時はほとんど人に会わないので、客はお互い「お前らどこから出てきた…」と思っていそうです。
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これから上五島中通島に行くのですが、船には時間があります。そこでタクシーで福江の町から15分ほどの鬼岳へ。おわんを伏せたような小ぶりの休火山です。標高315m。
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前日に凧あげ大会があったらしい。
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ここが火口跡らしい。馬や牛のフンが落ちてない阿蘇草千里のミニチュア版みたいで楽しい!最初は短めの周遊コースを歩いていたはずが、うかうかと火口一周コースを選択してしまう。
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「あわわ…船に間に合うんじゃろか」
調子にのった結果、奥道にはあまり踏跡がついていないため底知れぬ不安にかられるの図。非常によくあるパターンです(間に合いました)


船で北上してこれから向かう中通島では、さらに押すな押すなの教会めぐり。ほかにも捕鯨に関するスポットなど、名物運転手さんとの出会いにより、密度が高すぎる名所巡礼をしていますのでお楽しみに!


福江島 -a set on flickr-

*1:佐世保港からも便が出ています

*2:今は隠れているわけではないので、ニュアンスに配慮してカタカナ表記したりするらしい