沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

虫にときめけ!おどろけ!日帰り虫観察ツアー「ときめき昆虫学」開催レポート

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ときめき昆虫学』を書いてから、昆虫に関するトークやラジオ出演の機会をいろいろさせてもらっています。しかし、屋内でさして虫についてくわしくもないのに偉そうに語っていると、どうしても外に飛び出したくなってくるもの。
観察会もいつかやってみたかったのですが、お客さんを連れて野外に出るというのはなかなかハードルが高いです。と思っていると、『ときめき昆虫学』担当編集の田中祥子さんが「風の旅行社」という旅行社さんを紹介してくれました。

風の旅行社

風の旅行社さんはもともとネパールやチベット方面に強く、モロッコ・グアテマラ・ウズベキスタンなど、旅好きにはよだれが出るような場所へのツアーを組んでいます。各地に駐在員や支店を置き、きちんとしたコネクションがある現地スタッフ・ガイドとともに一味違った少人数ツアーができるのが大きな強みです。
そして最近では「風カルチャークラブ」という、コケ観察や地質・樹木を知る旅などの個性的なツアーも企画しています。風の旅行社の水野さん・嶋田さんにご紹介いただき、「じゃあ虫のツアーもいっちょやってみましょうか!」ととんとん拍子に話がまとまったというわけです。


5月24日、はじめての観察会の舞台になるのは、神奈川県の秦野(はだの)というところ。新宿からは小田急線で70分ほどでリッパな街ですが、駅から歩いていける弘法山周辺は、奥は丹沢にも連なる山なのでたくさんの虫を見ることができるのです。
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駅前を流れる水無川の河川敷で、定員15名の参加者のみなさんに説明をする講師の政所名積(まんどころなづみ)さん(写真右)。秦野に住みながら「展翅屋工房」という屋号で昆虫標本の作製をされています。虫というのは採集して死ぬとちぢこまってしまいますが、美しく観察に適した標本にするためには展翅・展足といって、形を整えてやる必要があります。政所さんは標本商から仕入れたり、研究者から依頼された標本を展翅して、博物館に納入したりといったお仕事をされているわけです。
左で上着を脱いでおられるのは、風の旅行社の水野さんです。勘のいい方はもうお気づきかもしれませんが、虫博士と添乗員がばっちり揃っているので、メレ山の存在意義は限りなく疑問です。
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この日はよく晴れてものすごく暑い!お客さんは男女半々くらいです。
メレ子「きょ、今日はお目当ての虫はありますか?」
Aさん「あの、前にハイキングに行ったときにザトウムシを見て…ひょこひょこした動きが気に入ったんですけど、友達の手前じっくり観察もできなかったので、今日はザトウムシを見たいです」
メ「えっ、わりかし嫌われものっぽい虫を…うれしいです!きっとザトウムシはいると思いますよ!」
こんな話をしながら弘法山公園の入口までやってきました。
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しばらく登り坂が続きますが、途中の伐木が積んである場所などで虫を観察。アリに擬態しているアリグモ、赤いダニがついていますが「アクセサリーみたい」と好評です。
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さっそく出てきたザトウムシ。暗い山の中ではほんとによく会う虫です。昆虫ではなくて、クモやサソリなどに近い仲間ですね。
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Bさん「あっ、タンザワヤブキリいたいた。この辺にしかいないけど、この辺には腐るほどいるキリギリスなんです」
メレ子「ムムッ!初心者向けって言うたのに、直翅屋がまぎれこんでいる!!」
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Bさんはその後もチョウなどを見かけると猛然とダッシュして網を振り、「さすが虫屋さんは動きが違う」「なんて敏捷で迷いがない動きなんだ」とまわりの尊敬を集めていました。


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政所さんが「イボタガの幼虫がそろそろ終齢になるころでは…」と目をつけていた場所。
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イボタノキは白い花をたくさんつけています。
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幼虫の発生する木は限られていますが、大食漢のイボタガ幼虫はたくさんフンをするので、クモの巣についたフンで彼らがいることはバレバレになってしまうのです。
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彼らとて目立ちたいわけではないのですが、目をこらして探すと…奇ッ怪な幼虫イターーーーー!!!!!
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今日は探す目も多いので、どんどん見つかります。このめちゃくちゃな造形…最高や…。
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イボタガの4齢幼虫です。もう一度脱皮すると終齢になり、この奇怪なツノはなくなってしまいます。残念です。
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イボタガ「来年の早春にまたここに来てください。もっと奇怪な姿をごらんにいれますよ」
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イボタガはこのあと蛹になり、夏と秋と冬の間をずっと蛹で過ごします。そして3月末~4月頭くらいのまだ肌寒い季節に、猫のような目玉と異次元を思わせる模様をまとって羽化するのです。まだ迫力のある虫がなかなか見られない早春にあらわれるみごとな虫なので、虫屋さんからは親しみをこめて「春告蛾(はるつげが)」と呼ばれることもあります。
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早春の三大人気蛾といえば、あとはアイドル系のエゾヨツメ(左)と戦闘機みたいでかっこいいオオシモフリスズメ(右)がいます。


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イボタガをひとしきり堪能したあと、政所さんが「実はサプライズで、昨日トラップをしかけておきました。地を這う虫がなにか入っているといいですね」と!さっそく中を見てみましょう。
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あっ、これはちょっとまずいですね…あわれなおびただしいザトウムシが出られなくなってしまっています。コップを仕掛けるトラップは、オサムシなどの飛べないかっこいい甲虫を採るのに適しているのですが、たまにこういうこともあります。
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でも、5個しかけたコップのうちのひとつにはアオオサムシも入っていました。このプラスチックシャーレは、動きが早い虫を入れて観察するのに適しているので政所七つ道具のひとつです(本当はたぶん70とか道具があると思う)。


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弘法山の山頂でお昼ごはん。薄曇りですが、富士山もなんとか見えています。
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帽子に登ってきたシャクトリムシが枝のふりをするも、だんだんつらくなってプルプルしているさまを見て楽しむ鬼畜な人たち。
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ハエトリグモもごはんをのぞきにきます。


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反対側に山を下ると、めん羊が飼われている牧場が広がっています。この近くの「めん羊の里」というジンギスカンのお店で有志はアイスを買い、しばしくつろぎました。
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午後の部はあいにく風が強くなってきて、政所さんは期待していた花に集まるカミキリムシのたぐいが見られず、たいそうくやしがっています。これは、本来ならカミキリムシのレストランとなっていたであろうガマズミの花。
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しかし、風が思いもよらぬシャッターチャンスをくれることも。雑木林の中では、アカシジミが風を避けて低い葉のかげでちぢこまっていました。本来はクヌギなどの木の上のほうにいるので、こんないい場所で撮らせてもらえるのは珍しいそうです。
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そろそろいい時間になってきたので、秦野駅のほうに戻ります。政所さんが持っている折りたたみの虫とり網のうち、赤いのは赤色を好むアゲハチョウなどのためにこしらえた特注品。政所70道具のひとつです。
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「亀たちは何を思ったのか」こっちが聞きたい。「その石があまりにも亀に似ているので」真剣に協議したが、どの石が亀の子石かわからなかった。
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観察会の最後は、政所さんおすすめのラーメン屋さんで有志で打ち上げをしておひらきとなりました。帰りに立ち寄れる温泉のパンフも持ってきてくれるなど、政所さんの虫だけでないガイドっぷりがすばらしかった。


政所さんの解説は単にめずらしい虫を見せてくれるだけでなく、目の前の虫がいかなる気象条件のどんな時期に、どの植物に見られるかということまで教えてくれます。全体的に虫を見る目が磨かれ、最高におすすめです。
実はここには出てこないレアな虫も見ることができ、みんなでかなりの時間をその虫の観察に費やしたのですが、ある程度場所が特定できる状態でネットに載せると好事家が押し寄せてしまう可能性もあるので掲載できません。でも、とっても幸せな時間でした。
次回の観察会では、ここに出てくるのとはまったく異なるラインナップの虫たちが見られるはず!次は同じ秦野のフィールドですが、コース取りをきつい登りを避けたものに変更し、さらに「めん羊の里」でお昼をとれるようにしました。6/14(土)、明日!そう明日!実はこの梅雨シーズンということもあり、まだ空きがありますので、ここまで読んでくださった方はぜひ風の旅行社さんにお申こみください。
【追加設定!】6/14(土)ときめき昆虫学 ・秦野の山で虫にときめく一日
4月~梅雨明け後1、2週間までが、一年のうちでいちばんいろんな虫が見られるシーズンだと言われています。梅雨の晴れ間は狙い目ですよ!盛夏や秋にも、いろんな形で虫ツアーを実施していきたいと思っています。