夜の散歩

クーラーの効きすぎたオフィスや家にいると体が冷えるので、家の近所を夕方から夜にかけて散歩することがある。上海の街はどこもかしこも開発されまくっていて、ビルとか夜景とか正直いってぜんぜん好みじゃないけれど、川が多いのはいいと思う。夕暮れだけは上海も悪くない。そこら中を意識の高い上海人ランナーが走っているので、暗くなっても歩いていて怖くないのがいい。
むわっとする空気の中、川沿いの道を音楽を聴きながら歩いていたら、いま周りにいる人たちみんな言葉が通じないんだな、なんて気楽なんだろうという気持ちになってくる。寂しい気持ちもあるけれど、日本にいるときだって基本的には寂しかったわけだし、誰といても寂しいんだろうから次はまたどこに行ってもいいんだと想像する。
むかし中島らもか何かの本で「トンカチで頭をたたき続ける人生」というのを読んだことがある。トンカチで自分の頭をゆるく一定のリズムで殴り続けると、当然けっこう痛い。でも手をつかの間止めると、ジーンとなってちょっと気持ちいい。そのちょっとした気持ちよさを求めて、ずっと頭をトンカチで殴り続ける……というような話だった。
会社で働いたり、そのかたわらでいろいろ活動しているのも、トンカチで頭を殴り続けているのと何か違うんだろうか。生きていくためにやっていることだけじゃなくて、自分から望んだ楽しいはずのことも、いざ手をつけてみると9割は苦しい。1割が純粋に楽しければ御の字だ。降り下ろしたトンカチからたまに散る火花やオパールのきらきらした断面や見たことない色の内臓を眺めて、たまに感心したり喜んだりしながらだんだん死んでいくんだろうなー、と思いながら、空がはじから紺色になっていくのにまだ家に帰りたくないので少し困っている。