沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

塗装と宴会の週末

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先日、思い立ってインナーテラスの塗装をはじめたのだが入隅を塗ったあたりでペイントがなくなってしまい、中断を余儀なくされる。家がアニッシュ・カプーア展みたいになった。

追加発注したペイントが届いたが、平日の夜がんばる気にはなんとなくなれず、土曜の朝6時から塗りはじめる。天井を塗るときにはしごの高い段に立つのが嫌すぎて、どうやってやってたんだっけ?とやるたびに思う。作業中に慣れてはくるのだが、もしはしごから落ちて助けが求められない状況になると簡単に死ぬ。かわいい家にてひとり死す。あとには売りづらいかわいい家が残される。塗りさしの。養老天命反転地みたいなカラーリングの。

BGVでNetflixの「ダブル」と「ブラッシュアップライフ」を観終えて(聴き終えて)しまう。わたしは「あなたは来世グアテマラ南東部のオオアリクイに生まれ変わります」と言われたら「次の転生も哺乳類なんてかなりレアだな」と思いながら受け入れると思う。確率的には昆虫とか菌類とか珪藻とかだよね。
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インナーテラスはパッションフルーツという名前の紫色になりました。その奥の部屋にはジャックフルーツという名前の黄色のペイントを塗ることを考えている。

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無事に塗装を終え、午後から家で飲み会。むしろ飲み会があるから塗装をがんばった。牡蠣、燻製、ワイン、ローストビーフなどが集まりひときわ豪華な感じに!蒸すとおいしいとのことで、おそるおそる圧力鍋で蒸してみる。

「蒸しても殻が開かないやつはもともと死んで傷んでいたはずだから無理に食べない方がいい」と言われ、「鍵が開かないってことは家に入るなってことなんだ」というセリフを思い出す。テッド・バンディだかジェフリー・ダーマーだったか、とにかく連続殺人犯も連続殺人犯なりに験を担いでいるというエピソード。牡蠣にしてみれば大量殺戮犯には違いない。

16時くらいからはじまった飲み会は夜の1時半まで続いた。日曜はみんな頭痛や二日酔いに悩まされたらしい。わたしも体に力が入らず昼まで寝ていたが、寝ていてもなんとなく気持ち悪いので、布団から這いだしてホームセンターに向かう。

買っておいたウォールシェルフを寝室の枕元につけるための材料をいろいろ買ってきた。

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ウォールシェルフのねじ穴が径1センチほどもあって、普通のねじには大きすぎる。結局ホームセンターにあった「スピード・ミニ10 どこでも下地」とかいう薬剤でスポンジを固化して一度穴を塞ぎ、気休めにワッシャで押さえつつ石膏ボードアンカーで固定した。強度は若干心許ないが、枕元に集まりがちな目薬やティッシュやリモコンなどを引き出しに入れたいだけなので、たぶん大丈夫だと思う。まるまる太った猫ちゃんなどが乗ったら危ないが、猫ちゃんはいないので問題ない。猫ちゃんか…猫ちゃんがいたら100000000点の家になってしまうが…としばし遠い目になる。

棚こそ付いたもののやはり元気がないので、早めに就寝する。土曜に二日分の活力を使ってしまったのだから致し方なし。楽しかったし!

きつねにつつまれたくない

仕事をしていてきつねにつままれたような気持ちになることがあったのだが、いつも「きつねにつままれた…つつまれ…?つつまれたような…?フフ…」と一瞬考えてしまう。きつねに首のあたりでファサーッとつつまれて焼いたパンのような香りを吸いこんだら、化かされたようにすべてがどうでもよくなってしまうだろう。と、以前はそんな妄想をしていたが、もういい大人なので野生動物と触れ合うリスクについて知ってしまっている。エキノコックス、狂犬病、そしてダニの恐怖。
酔っぱらいが路上で寝ていると野良猫やたぬきが寄り集まってきて暖を取るので釈迦涅槃図みたいになれることがある、と昔ネットで読んだが、その酔っ払いはあとで謎の全身のかゆみに苦しんだのではないだろうか。やはり、きつねにはつままれるくらいがちょうどいい。

上絵付の教室に通いはじめた。なにか没頭できるものを探そうと思い立ったときに目に入ったのが九谷焼だった。もともと陶芸には興味があったが、器の世界は広いだけに好みが分かれる。磁器の硬質さと上絵具の華やかさが好きなのだとやっと言語化できた。無心になれそうなところも良い。
体験教室では先生の骨描き(呉須で描いた線画)に上絵具を置いて焼成してもらう。先生の引いた線がバキバキに決まっているので、上絵具の盛りがおぼつかなくてもそれなりに栄える。ガラス質の粉が原料だから、焼いたあとに色が一変して透明感が出るのだということも実感できた。
先日は教室の初回で、いよいよ骨描きに挑戦。いきなり呉須で描くのかと思っていたが、下絵を器に写す段取りがけっこう大変。筆を置いてから小さく矯めることで筆先まで呉須が下りてきて、掠れのない線が引けるようになるのだが、幾何学文様の直線を引くのが本当に苦手。漫画家のアシスタントはまず入りと抜きのしっかりした直線を引けるようになるまで何度も練習させられる、という話を思い出す。自宅で練習するしかない。石畳柄の骨描きがあまりにグズグズだったので、そのあと取り組んだ椿の柄はとても楽しかった。

いずれはきつねにつつまれた人とたぬきにつつまれた人を描いたお皿を作りたい。マンドラゴラやアステカ文明、稲生物怪録や冬毛のライチョウをモチーフにしたお皿なども作ってみたい。
九谷焼は行程ごとに専門化されているのでいま習っているのは上絵付だけなのだが、いつか自分で焼いたお皿に絵付できるようになりたい。滋器の土を使える陶芸教室もまあまあ少数派なので、がんばって探してみます。

深夜タクシーの柿

金曜の夜から土曜の昼にかけて、『奇貨』増刷分の発送作業をする。大量発送にはだいぶ慣れたし、梱包も要領がわかってきた。もう四六判の本を入れるためにB6のOPP袋を買ったりしない(かわりにB5のOPP袋に入れると空気を入れないように2回折る必要があり、そろそろパッケージプラザに行くべきなのだがその時間がない)。

たとえば発送アプリで「注文を選択してQRを生成する」とか、発送後は「注文を選択して発送通知を送信する」などのデジタル単純作業×200冊分がちょこちょこ発生するのが、達成感のない繰り返しとなる。ああ、CSVとかでコピペして取り込みたい…マクロとか使って自動化したい…と思うが、それがしたいならB2クラウドとかの法人・個人事業主向けプランでやるべきなのだ。「年に数回、200冊を一気に発送する」みたいな業態は、個人向けと法人向けの谷間に存在する。B2クラウドとプリンタとラベルシールがあればかなり作業が楽になるだろうけれど、今の頻度では微妙なところ。

とりあえずあとは営業所に持ちこむだけという状態になり、夕方からお友達のお誕生日会に向かう。レストランで開催されているのでどの時間に来て帰ってもいいですよ、という最高なやつ。

オフショルダーのドレスを着て強火のメイクをしたお友達は発光していた。最初は初対面の人ばかりでモジモジしていたが、気を取り直して名刺を配りまわり、SNSでフォローしたりした。途中で共通の友人が来て勢いづく。すっかりリラックスして楽しく駄弁っていたら、夜中の2時になった。お店の関係者の人たちは仕事を切り上げて隣のテーブルでワインを飲んでいたが、そのあともさらに仲間が来て飲み明かすという。最高の店だな…。

すっかり冬の空気の中、わたしはカラオケかネットカフェで始発まで時間をつぶそうと思っていたが、共通の友人が「え、タクシーに乗ろうと思ってた」と調べはじめる。おたがいの家まではどちらもかなり高額になるし、ルートは1ミリもかぶらない。「お金持ちやな〜、ではわたしはここで…」と言うと「自分がタクシーに乗るのにすずやんをネットカフェに行かせるのは…なんか違う気がする!じゃあもうすずやんの住む街までタクシーで行こう、お金はちょっとだけ出してくれればいい!」と説得される。こちとらネットカフェが好きすぎてネットカフェでバイトしていたことがあるくらいなので気にしなくていいのだが、要するにしゃべり足りないらしく、わたしもその気持ちはわかった。

駅前のロータリーにやってきた深夜タクシーに乗りこむと、後部座席につやつやの柿がひとつ転がっていた。

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「柿!柿が乗ってます!」と初老の運転手さんに言うと、「柿?!気づかなかったな〜。よかったらもらってください」と返ってきた。こんなものがあって気づかないことあるんだ。コート姿では暑いくらいなタクシーの中でも、両手でつつんだ柿はひんやり冷たい。パーティーの余韻と眠気で浮かれた我々には、深夜タクシーと柿の取り合わせがなにかの啓示みたいに思えて愉快だった。奇果、柿、奇貨、と語呂合わせが脳裏を転がる。たぬきの忘れ物だろうか。運転手さんも実はたぬきかもしれない、これはたぬきタクシーだ。

タクシーには一時間くらい乗っていた。深夜タクシーから見る夜の街は、雨宮まみさんが書いた「東京」そのものに見え、自然と雨宮さんの本や、そんなに多くはない思い出について話した。

たぬきタクシーはそのまま高尾山に向かったりとかはなくすんなり我が家に到着し、友人は棺桶部屋で仮眠してから帰っていった。

わたしも二度寝して目覚めると、ツイッターに投稿した柿に「横の人は…?」とリプライがついていたのでブロックした。たまにごはんの写真などに「一人じゃないんですね」とドヤ顔で指摘してくる人がいるが、あれはまあまあ不愉快なものだ。わたしに「タクシーの柿おもしれ〜」と盛り上がれる友人がいたらいかんのか?

営業所に行って発送作業をするが、ブラックフライデーとお歳暮と東名の道路工事などの影響で遅配が発生しており、忙しない雰囲気。前回の大量発送でスタッフさんたちにお世話になり、今回は「あ、マンドラゴラの人だ!」と言われてさらに手際よく処理してくれたのでさらに「好き…」となる。そこにやってきて「午前指定した荷物がまだ届かない」「◯日に届かないと意味がない、どうにかならないのか」と窓口で無駄に粘って仕事を増やす人たちには内心辟易する。

夕ごはんを食べて家に帰り、三度寝してから起き上がって家事をする。夜更けにあの柿を食べてみたが、まだ硬くてあまり甘くなかった。

『奇貨』感想まとめ/増刷分を販売中です

『奇貨』の通販第一弾を受け取った方々がいろんな感想をネットに書いてくれて、台湾に出張しつつ貪るように読んでいたら一週間が終わりました。

寄稿のおしらせ

出張中だったのもあってSNSでしか告知できていなかったのですが、新居のカスタマイズを楽しむ様子をSUUMO「マンションと暮らせば」に寄稿しています↓
suumo.jp

『奇貨』感想まとめ

以下は『奇貨』にいただいた感想です(勝手に要約&抜粋:随時更新しています)

  • 読んで悪夢に魘されました。クローズドになっているからこそ起こりうる恋愛関係の心的外傷が丁寧にすくい出されて描かれていました。あとがきの「不幸はずっと見ていたくなる色をしている」には闇の深さに恐れつつも共感。
  • アルコールを入れた勢いで読んだ
  • 前書きで泣いたのは初めてです
  • 「悲しいことを書くのは単純作業に似ていて」という一文があり、「本物の表現とはやはり違う」と続くのだけれど、黙々と運針をするように、そうじをするように、単純作業こそが人を生き延びさせる側面もあるように思った。
  • めちゃくちゃ面白くて一気に読みました。著者への賛辞として「面白かった」が最高に合ってると思った
  • マウスポチポチクリックして金出しただけなのに、影から絞った油と目から出た血を混ぜたインクで書かれたような文章を読んでしまっていいのか?!?!?!?!
  • 文章として形にしてくれたことで、それを読んだ人の過去を少しだけ肯定してくれる
  • 本当に表現がストレート、鋭利で、正直な苦しみが表現されていて感嘆しました。過去の色々な自分の黒歴史なども呼び起こされたり、恋愛によらず共感することも多かった…。
  • 私も若い頃何度も失恋したので著者の痛みはよくわかる。が、著者の相手を追い詰めたいと思うほどの恨みはストーキングに近くなっていく。同時にそんな自らの傷を開いて中を覗き見るような筆致は、もはや文学。
  • 前半刺身包丁抉られるような痛みを感じながらボロボロ泣きすぎて、読み進める事が出来なくて、章ごとに日を分けて読みました。
  • ワイプの小窓から「ひぇぇーい!」って言いながら先の尖った長い棒でバレないように突きてぇ〜〜!!
  • 僕は非道な人間なので、アーティストたらんとすることのみっともなさを何となく理解できてしまうというか、ああなるほどこういう美意識を当人が意図していて、それが舞台裏を知る他人からこうみっともなく見えるということがあるのかというあたりを面白く読んだ。
  • 文フリに行った友達が「早く読んで!」と送ってきた沙東すずさんの『奇貨』読了。自分が立つためになんでもするすずさんは本当にかっこいい。かっこいい本。
  • 読後感がすごくて、20年前にひどい裏切られ方をしたあれこれがフラッシュバックして涙が出てきた。
  • 「傷ついたときはまず心から傷ついたことを知ってほしい」という言葉に、本当に、本当にそうだなと思う。意味とか、克服とか、癒しとか、そういうことじゃない。傷ついたんだということを知ってほしい。その気持ちが、鋭敏な言葉選びによってヒリヒリと、ビリビリと、伝わってくる。
  • 例えば、相手に殴られてへこんだ自分の身体を見せながら「ここが窪んでいるのはね、あなたの指がここをえぐったからで、ここが切れているのはね、その爪がここをかすったからで…」みたいに、丁寧に克明に痛みを書き切っていて清々しさすら感じました。フレッシュ。
  • 読み進めるうち両肺に重い霧が充填されていくような息苦しさ。濾過すまい、その前に記す、という気持ちが伝わる。
  • どす黒い過去があればあるほど感情移入して、あのとき私は、相手はどんな心理だったのだろうかと脳内検討会が始まるとんでもない本だ。
  • 擦り潰された心と身体から搾り取った血文字で書かれる痛みの記録。作家がその名を捨てるとはこういうことか…と血の気が引く。幸か不幸か淡白に生きてきたので重ねる引き出しがほとんど無くて助かった、身に覚えがあれば心臓を抉られるとこだった…
  • マンドラゴラの表紙いいね。聞いた者をも殺す悲鳴だ。
  • 半分くらい読んだところで段々動悸がし始めた
  • 70ページが『カイジ』だった
  • 「熊の場所」の展開がめちゃめちゃバクバクした。勇気がすごい。ボロボロになりながら自供を引き出すところもすごいし偉い。
  • DIVAにしか生み出せない作品!終盤手に汗握りました。本当にDIVAなので、テイテイのWe Are Never Ever Getting Back Togetherを好きな人は全員読んでよね!
  • 特級呪物との噂にびびって、少しづつしか読めないんじゃないかと思っていたら、一気読みしてしもた。 傷だらけでなお一歩も引かない闘いっぷり。読み終わって何となく猫を撫でに行った。よしよし、よしよし。
  • 『奇貨』 読み始めたら止まらなくてソファの横に棒立ちのまま読み終えた。自分と一体化していた他者を丹念に引き剥がしていて良い すごかった。122ページが特に好き 「くたばれ♡くたばれ♡」からの「そう、あなたたちです。」 そう、あなたたちなんですよ
  • これはただの失恋立ち直り物語ではない。受けた傷に対してこれでもかという程向き合い、分解し、言語化されていて、読んでいて苦しかったけれど、嫌な苦しさではなかった。すずさんのかっこよさにしみじみ惚れてしまいました。
  • 私は痛みを逃したくて向き合わない方法をとるが(きっと多くの人がそうだと思うが)、すずさんはドカンドカンぶつかりに行って出口の穴を開けようとする姿勢。自分の心の中の恨みも憎しみも自尊心も隠すことなくまっすぐ観察していてすごいな
  • 大きな傷は見た目は治ったとしても後遺症は残る。心も同じ。深い傷と症例を見せていただきました。心から大好きだった気持ちが伝わってきました。信じていたものが崩れ去る時の、血の気が引く瞬間。そして見ないようにしていた違和感のピースがハマっていってしまう絶望。ぐうつらい!
  • 沙東すずさんの『奇貨』めっっちゃくちゃすごい本だった…。失恋体験によって生じた傷をこれでもかというくらい高解像で言語化していく内容で圧倒された、、元恋人とのなれそめはメレ山メレ子時代の著書『こいわずらわしい』で読んでいたが、その恋がこのような形で終わりを迎えていたとは。失恋の最中にいる人が、相手からの言葉を一つひとつどう解釈し、どのような時間を生き、心身がどのように揺れ動いているのか、こんなにも生々しく垣間見させてくれるものはそうそうないと思う。読みながら自分も過去の失恋が生々しくよみがえり、ちょっとぐったりしてしまった。『こいわずらわしい』とセットで読むと本書の迫力がさらに増すのでぜひ
  • ヘビーな内容に血の気が引きつつ先が気になり読む手が止まらず。最後に沙東さんがとった行動には驚いたけど、私も過去に同じ様な行動をとっていたことを思い出した。辛い経験と己の気持ちを冷静に鋭く言語化し本に纏めていて凄いとしか言いようがない
  • 面白がって冷笑する人、口を塞いでくる人、友達に距離を置かれる描写は辛くて毎回泣く
  • 感情を爆発させ、自分の物語を再構築していくところは、昔の自分に対して赦しが得られるようで、嬉しくて涙が出た。
  • 新しい文章が読めるのは嬉しいけど、これは喜んでいいことなのか、しかし文章が好きだ! という気持ちでごちゃごちゃになり、最後に「立ち直りの物語」が明確に拒絶されて痺れた。
  • 『こいわずらわしい』〜『奇貨』、読了。本でも映画でも、他人の恋愛についてこんなにも生々しく辿ったのは初めてだと思う。こんなに生々しい感触のまま言葉に落とし込める才能と、言葉にしようとする胆力に圧倒される。物書きの凄味を感じると共にフュリオサを思い出した。
  • 読み始めてハッと気がついたら頭が締め付けられるような感覚が… 奇貨を読んで一番思い出したのが猫が死んだときのことであれ以上受け入れ難いことはなく、受け入れてもいないし今だに立ち直りもしていないしその必要ももはやないと思っている
  • すごい本。おもしろいって言っていいのか分からない。朝ポストに入っていたのを鞄に入れて、帰りの電車で開封して読み初めて乗り換えのホームで立ったまま読了。 “それ聞く?“それ言う?”の言葉の応酬、裏返ったオセロを一つ一つ反芻する将棋の感想戦の様な下り、推理小説か?(これ読んでいいのかな..)という気持ちで読み始めたが頁をめくる手が止まらない。手に汗握るラスト。恋愛バンダム級が違いすぎて未知の格闘技を見ている気持ちになる。拍手。 終盤一文字一文字がタイプライターで打たれているみたいにガシャーンガシャーンガシャーンという効果音と共に響いてきた。弾丸かよ。筆者の心の叫びを受け止めたせいか(到底受け止め切れる重量じゃない)読んでいる途中からすごくカラオケに行きたくなった。
  • 彼との会話にダメージを受けながら、私もすずさんみたいにちゃんと話をすればよかった理由も聞かず話さず泣いて終わった過去の経験を思い起こしながら一気読みした。
  • 私は痛みを逃したくて向き合わない方法をとるが(きっと多くの人がそうだと思うが)、すずさんはドカンドカンぶつかりに行って出口の穴を開けようとする姿勢。自分の心の中の恨みも憎しみも自尊心も隠すことなくまっすぐ観察していてすごいな
  • 「心底どうでもいい。」のところが響いた(複数)
  • 「バカのバタフライ効果」にウケた(複数)
  • 自分がされたことを思い出した(多数)
  • 自分がしてきたことを思い出した(多数)
  • 自分の内面と向き合うことで他人の内面も曝しだす手順が書いてあった。私自身は、この中の「おそるおそるツイートにいいね」した登場人物だった。その時イイネしたツイートは、腹と頭に巻いたサラシにダイナマイト仕込んだ人みたいな言葉だと思った。ここには人が人に寄せる思いの変遷がある。心変わりや軽薄さを自己愛の物語化しようとする欺瞞を、サラシ腹巻ダイナマイトの言葉がそれを吹っ飛ばして不恰好な事実を剥き出しにしていく。どっちに力があるかなんて言うまでもない。この本はたくさんのひとを打ちのめしながら力を与えるんだろうな。


あと、封筒に描いたマンドラゴラちゃんを切り抜いてしおりにしてくれた方が多数。とても嬉しいです。たくさん描いたので若干こなれてきたよね。

増刷分の注文・発送について

satosuzu.base.shop
増刷分が無事納品されましたので、今までご注文をいただいた分について順次発送を進めています。12/2(土)までに注文いただいたものは12/3(日)に発送完了予定です。
83s.shop
「はちみせ」さんでも現在SOLD表示ですが、在庫を補充します。あと2千円で送料無料なのになー!という時などに。

扱ってくださるお店・書店さんがありましたら、mereyamamereco@gmail.comまでご連絡ください。送料はこちらで負担いたします。


自分が書いたものを自分以上に重く受けとめてくれる感想を読みながら、思い出していたのは「ものを書く人間は、みんな嘘つきです。」という言葉だった。

わたしだけに見えたわたしだけに都合のいい話を書き殴り、人目に晒して知らないだれかの共感を買うために整えるなかで自分にも見えないくらいこまかい嘘をつき、書き終えた頃にはすべてを忘れてどうでも良くなっているのが、わたしにとって最高の結果だと思う。
(『奇貨』まえがきより)

まえがきにこれを書いたときから、この言葉がずっと心を離れなかった。亡くなった雨宮まみさんが『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』の書評によせた冒頭の一文だった。
spur.hpplus.jp
わたしが書いたものを読んだとしたら雨宮さんなんて言っただろうな、と考えていた。なんか不謹慎なジョークを飛ばしてくれただろうか、と想像しているところに、雨宮さんの連載『40歳がくる!』が7年ぶりに刊行されるというニュースが流れてきた。
amamiyamami.hp.peraichi.com
ぼろぼろの状態で春に40歳を迎えて、自分なりにけりをつけたあとにこの本を手に取れることは、個人的にはとても嬉しい。正座の心持ちで読みます。

『奇貨』通販を再開しました

増刷の目処が立ちましたので在庫を復活しています↓
奇貨 | 沙東すず

これまでの通販分には11/19(日)に発送完了済みです。不備や不着などありましたら、メールにてご連絡ください。
現在ご注文を受けている増刷分は11/29(水)納品→12/3(日)発送予定です(印刷トラブルなどで遅れる場合、その旨ご連絡いたします)。

発送作業の中でなんとなく爆誕したマンドラゴラちゃんです。ヤマトのスタッフさんにもほめられたのでキャラクター化しようかな。

文学フリマ東京/製麺会/『奇貨』通販について

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文学フリマ東京は無事に終了しました。来場いただいたみなさま、ありがとうございます。

『奇貨』は会場への直接搬入だったので、箱を開けて刷り上がりを見たときは心底ほっとした。マンドラゴラはわたしの悲鳴のモチーフです。自分そのものだった悲鳴はあげたそばから自分を離れ、受け取った人のものになっていく。

友人には『奇貨』ではなく「呪物」だの「黒い元気玉」だのと呼ばれています。おおげさなしかめっ面で来て「やだなあ…やだなあ…感想はたぶん言いません!」と言いながら買っていった友人もいた。面白がっているのも複雑な気持ちなのも、どちらも本当なのだろう。

ほんとに面白半分でいい。むしろ面白がってほしい。そう思えるようになった今、わたし以上に感情移入してつらさをこらえながら読んでくれる人もいて申し訳ない気持ちになるが、まさに「お前が言うな」である。

文学フリマはブース隣接申請ができるので、夏に声をかけてくれたワクサカソウヘイさんのおかげで藤岡みなみさん、宮田珠己さんらの豪華な島に並ばせてもらった。特に藤岡みなみさんのブースは人だかりが途切れず、その向こうで同じく猛然とZINE『園芸グランドスラム』を売っているはずのワクサカさんがほとんど見えないほどだった。お隣の宮田さんとそれを眺めながら「あれくらい売りたいっすねえ」「いいねえ」と話していたのだが、宮田さんもぼやき上手なだけで途切れずにやってくるファンのお相手をしているのだった。

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開場前と閉場間際に走りまわって、それぞれ10分くらいで買った本たち。

閉場後、ワクサカアイランドの有志と飲みに行く。お誕生日会や忘年会など、さらに楽しみな予定や計画がいくつか持ち上がる。あっという間の一日。

 

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翌日の日曜は製麺会。ちょっと前の飲み会で玉置標本さんに「うちで製麺してみろや」と絡んだところ、本当に製麺機と麺生地と朝から煮込んだスープ等々を担いできてくれた。言ってみてよかった!さすが50台の製麺機を持つ男。


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沖縄そば、めちゃくちゃおいしいし作ってる最中もすごく盛り上がる。正直いってちょっと製麺機が欲しくなった。うちのインテリアにも合うし…。

玉置さんご自身の記事はこちら↓

www.seimen.club

しめ鯖や燻製や落花生やハイボールを携えて集まってくれた友達にも『奇貨』を渡す。もう修復が難しそうな人間関係もあるけれど、あの爆発物取扱注意だった期間を越えて見放さずにいてくれている人にはほんとうにありがたいなと思う。

 

『奇貨』のことでいろいろ動いているうちに、もっとたくさんの人に読ませたい気持ちが湧いてくる。読んでくれた人から感想をもらって調子に乗っているのもあるが、こんなに切実な気持ちで書いたものはこれまでになく、書いてしまったからにはやはり読まれたいのである。

基本的にはいま読んでくれているのはSNSで荒れてたときのわたしを見て心を痛めてくれていた人たちなので感想も温かい。もうひとつ円が拡がれば、もっと容赦なく面倒くさい反応もあるだろう。それでも「もっと読まれたいか?」と訊かれたらイエスしかない。力が…欲しいか…?欲しいです!

そう考えているうちにみずから動く必要を感じ、予定している委託通販とは別に、急遽BASEでショップを作った。最近は匿名発送などの手段も充実しているらしい。必要なのは、自分で発送作業をなんとかする覚悟だけ。

satosuzu.base.shop

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通販のおまけとして、表紙に使われているのと同じマンドラゴラ図のポストカードをdubheさんにご用意いただけることになった。目にも止まらぬ速さで印刷の対応をしてくださいました(文フリで本体のみ購入された方は、よかったらdubheさんのショップもごらんください)。

朝から告知したところ、順調にオーダーをいただきまして現在SOLD OUTになっています。読んでくれる人がいる限り、増刷もすみやかに対応します。Kindle Direct Publishingでの電子化もやってみようと思っている。

四年ぶりの出張、そして文学フリマ

もともと2020年の四月に上海から日本に帰任することになっていたのだが、その準備もかねて春節に日本に帰ったところ、コロナ禍がはじまって今度は中国に戻れなくなった。他の出向者が業務を回すために上海に戻っていく一方で、帰任間近のわたしはそのまま本社にとどまることになり、結局中国で一緒に働いていた人たちにあいさつもできないまま、引っ越しさえもリモートで済ませることになったのだった。

帰任後も海外出張は(とくにわたしの部門は)しづらい状況になり、しばらくお預けに…という状態が四年も続いてしまったが、今週ついに一週間出張してきた。二年半を過ごしたオフィスで、同僚たちがとてもあたたかく迎えてくれた。

忙しなくて充実した時間だったが、いよいよ最後の報告会を終えて明日は帰国するという夜だけは、なぜか動悸がして眠れなかった。

駐在して特に悩みが多かったころ、体に起きていた症状。横たわっていると心臓が喉のほうまで上がってくるように大きく響いて、つい呼吸が浅くなってしまう。

思えば当時、恋人になる前の彼がなんとなく気になる存在になり、一気に惹かれあい、旅先でつきあいはじめる前もよく起きていた症状。またこの春、いきなり裏切られたあとも。

当時感じていた重圧、そしてそのあとはじまったコロナ禍の先が見えない暗さに支えられていた関係だったのだな、と、謎のリズムで跳ねる心臓を抱えて思った。

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リモート引っ越しでこの形状のためか業者さんに運んでもらえず、現地オフィスで預かってもらって、四年越しで新居にやってきたライトスタンド。上海の旧市街にあった雑貨屋で買ったもの。

 

明日(今日)の文フリで新刊『奇貨』を販売します。各方面に大丈夫なのかと思われている気がしますが、『奇貨』のゲラを裏紙にして、めくるたびに「怖えこと書いてあるなあ…」とひとごとのように思うくらい元気です。人にはおすすめできないが、そういう乗り越え方もある。

自分から見た現実を自分の中で捉え直して書きつづる作業は非常につらいものだったが、ゲラになった瞬間、起きたことがひとつ遠い次元に遠ざかっていった。編集者の田中さんに鉛筆を入れてもらい、デザイナーの畑さんに整えていただいた装丁にテキストが載った時点でスイッチが切り替わった。関わってくれた方にとっても実際やりにくい仕事だったと思うけれど、人となにかを作ることにはそういう作用がある。

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11/11(土)に流通センターで開催される文学フリマ、【G-28 沙東すず】でお待ちしています。後日、通販についてもお知らせします。会場ではじめて現物を見るため、関係者への献本については文フリ後となりますがご容赦ください。面白いです。

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【G-23】ワクサカソウヘイさんのブースで販売される『園芸グランドスラム』にも、マンドラゴラをテーマにした奇譚「絶叫草」を寄稿しています。面白いです。

さらに食虫植物愛好家の木谷美咲さん、ワクサカソウヘイさんとの、恋の終わりについての鼎談も掲載されています。最後は中年が創作においてどう「飽き」と向き合うか?という議論になっていく。面白いです。