沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

巨大な砲塔跡の内部に潜入!ほか灯台、マンボウなど

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先日実家に帰っていたとき、例によってお父ちゃん*1が「メレ子毎日ひまそうやけど…今度の休みどっかドライブ行く?」って言ってくれたので
「丹賀砲塔砲台跡と水ノ子灯台と、あとマンボウッ」
と即答しました。
お父ちゃんが「小さいころはドライブに連れ出しても仏頂面でゲロを吐き散らしてたのに成長したな…メレ子…」と喜んでいるのか、「帰ってくるたびにカメラはでっかくなるわよくわからん所にばかり行きたがるわ…まさかこの子『ブロガー』とかいうものになってしまったのでは…」と危惧しているのかは、リアクション少なめなのでわかりません。

丹賀砲塔砲台跡

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今回めぐるスポットは大分県南の佐伯(さいき)周辺の沿岸部に点在しています。豊予海峡を挟んで愛媛と向き合う佐伯市鶴見崎は重要な軍事拠点になっていたようで、砲台や観測所などが多数残っているのです。
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砲台入り口の前には戦闘機のプロペラと慰霊碑がある。
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崖に二つ穴が空いていて、一つは地下弾薬庫です。弾薬庫に対する思いこみを打ち砕くようなオシャレなタイルですね…
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で、もう一つは斜坑口です。ここからリフトで砲塔内部へ登っていきます。砲台に「筒に黒い丸い玉をつめこんでズドーン」という貧困きわまりないイメージしか持っていなかったので、内部に登るという概念が不思議すぎる。大久野島にも砲台跡はあったけれど、のちに毒ガス貯蔵庫として使われた小部屋のようなものが残っているだけだったからなー
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斜坑というだけあってかなりの急傾斜で、思わず首をすくめてしまう。五分くらいゴトゴトして上に着きました。
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砲台内部の回廊。もう少しきれいだったらオシャレなホテルっぽい。
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砲台の横と縦の断面図です。大きな穴を掘って弾薬室や動力室を地中に保護しつつ、砲身だけが地上に出て敵艦を狙撃する仕組みだったみたい。
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冷却水槽室がたくさんある。機械設備のたぐいは残っていませんが、当時の写真などが展示されています。
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そして上につづく巨大な砲塔井へ。
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らせん階段はもちろん設備見学のためにあとから設置されたものです。
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保護のためにかけたドームのせいで、砲塔というより天文台みたいです。でもここには巡洋艦「伊吹」から移した30cmカノン砲なるものが据えつけられていたらしい。パンフレットには有効射程距離26,000mと記載されています。
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とにかく圧倒される巨大さで、建設に膨大な労力を注ぎこんだことが見てとれるのですが…太平洋戦争勃発を受けて行われた昭和17年の実射訓練で、その日最後の砲弾が暴発。16名の死者と28名の負傷者を出す大事故になってしまいました。コンクリートの内壁の凹凸がそのすさまじさを物語っています。砲台は敵艦に向けて砲弾を発射することなく破壊されました。
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「ムチャクチャな時代やなァ…まあ今がムチャクチャじゃねえかっち言ったらじゅうぶんムチャクチャやけど…」
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左は豊後水道に浮かぶ大島。高校生のときここ出身の子がいたなー、今は離島のお医者さんになるべく修行されているはず。

水ノ子島灯台(海事資料館・渡り鳥館)

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丹賀砲台から海沿いに車を走らせ、次は水ノ子島海事資料館にやってきました。
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資料館の前の海に目を凝らすと…
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左の白い灯台と右手の岩の間にうっすらと見える黒白の灯台…これが日本で三番目に高い「水ノ子島灯台」です。潮の流れが速い豊後水道にある水ノ子島(島というより巨大な岩礁)は、航行する船にとって危険な存在。そこで4年の難工事を経て明治37年に灯台が設置されました。
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資料館の施設は、昭和61年まで灯台に常駐していた灯台守やその家族の吏員退息所に手を入れたものです。
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屋根瓦に刻まれた郵便マークは、当時の灯台の管理を逓信省(のちの郵政省)が行っていたことを示しています。
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当時の灯台守の生活を再現。本土側の退息所で過ごすのはいいとして、島の灯台にずっといるのはつらいでしょうね…
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当時の発電機やロケに使われた「喜びも悲しみも幾年月」という映画の台本です。
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水ノ子島の模型。これは…ブラッドベリの短編に出てきそうでめちゃくちゃカッコイイ!ぜひ渡りたい!現在水ノ子灯台は無人灯台になっており、残念ながら定期航路等はないので、漁船をチャーターするしかないようですが…。


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海事資料館の奥にあるのは渡り鳥資料館です。あまりにも人が来ないために来たときだけ扉を開けるシステムになっているらしい。
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鳥さんがいっぱい!これはいったいどういう資料館なのか…
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実はこれ、水ノ子島灯台に衝突した渡り鳥の死骸を剥製にして展示しているのです。
「従来、灯台はあたかも渡り鳥の墓場であるかのように言われてきましたが、観察の結果によると事実は全く正反対で、灯台は方向を見失った鳥たちのみちしるべの役割を果たしている」とのことでホッとしつつ「現在のところ、日本の灯台で衝突死の起こる灯台は水ノ子島灯台だけでしょう」というやや気の滅入る記述もあります。
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渡り鳥ってこんなに種類があるんだなあ…と道半ばにして死んでいった激突鳥たちをいたみます。
首がねじまがり肩の毛が抜け落ちた剥製を見て父と「このひとはすごい盛大にぶつかったんだねェ」と話していたら係の人に
「それは剥製にしたあとで台から転げ落ちてそんな有様に…でも代わりのあるものではないので捨てるにしのびなくそのままにしています」
と言われました。
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転げ落ちエピソードも最高だけど、一羽にひとつずつ防虫剤を足元におかれたり背中にのせたりしてるのがすごいかわいいな!ヒメカツオブシムシやヒメマルカツオブシムシとめいっぱい戦っている…。


鶴御崎灯台

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鶴見半島は九州の最東端に張り出していて、そのいちばんはじっこに風光明媚な灯台がそびえています。
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途中でお昼を買ってきてここで食べればよかったねーと言い合う。
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灯台の下にはわれわれ父子の記憶によれば富永一朗漫画館*2というのがあったはずなんですが…なぜか無人の「ウキ展」が行われていました。
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病棟を思わせる白い建物の中にかざられた無数のウキ…大島に流れ着いたウキを通人が拾い集めて5,000本を寄贈してくれたそうです。これだけあったら浮くどころか飛べそうですよね(うつろな目で)
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ウキ展、大好評開催中!


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灯台ごと海を見られる展望ブリッジもあります。年代ごとに所要時間が書かれていてすごく親切。父が「最近の六十代は二十代より足腰がつよい」と主張しています。
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展望ブリッジとそこからの灯台の眺め。
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橋の下に見えるのは軍が作った観測所の屋根です。鶴御崎灯台の下にも目立たないように作った観測所があったようで、軍事的に重要な拠点だったんですね。
丹賀の暴発事故後、軍は突貫工事で鶴見崎に四台のカノン砲を配備しましたが、これらも使われることなく終戦を迎えたそうです。
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定置網にかかったマンボウをウォッチング

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鶴見半島を離れ、蒲江(かまえ)という町のマリンカルチャーセンターという施設にきました。ここは水族館とはちょっと違うんですが、海に関する展示があったり研修とかに使われるような施設で、毎年定置網にかかったマンボウを冬から初夏にかけて展示しています。
大分県マリンカルチャーセンター公式HP
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貝類がえらい充実しとる…。
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プールにひそむ黒い影
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サメだー!
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マンボウ「フフフ、上から見るとわれわれも凶悪なサメのように見えるだろう」
メレ子「横からの造形がそもそもフザけすぎなんですよ」
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マンボウ「われわれはここに飼育されているわけではなく、毎冬数匹が定置網にかかってしまうので夏まで仮住まいしているのである。まあ遊泳力はみんなが思ってるよりあるんだけど。外洋に浮いているだけの生活をしていると思われがちだが、けっこう深層にもいたりして、とにかく謎が多い。謎の多い男はモテる」
メレ子「数少ないわかっていることのひとつとして、その肉は非常にいたみやすく、市場に出回ることは少ない。しかし白身でやわらかくなかなかに美味であり、漁師はマンボウが揚がると船の上でさばいて舌鼓をうつこともあるという」
マンボウ「…!」
父「メレ子は何をブツブツ言うちょんのか…」
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同じくウミガメも適当に水槽に放りこまれているが、あまり人気がない。


いろいろと行きたかった場所にドライブできて自分もちょっと運転したし充実してたわー!と思ったんですが、翌朝母に
「アンタまたおそろしい運転したん?父ちゃんうなされちょったよ。『ヒーーーーー』って言いよったよ」
って報告された!ショック…!運転しないという親孝行をこれからは実践していきたいですね。


丹賀砲塔砲台跡と水ノ子灯台については、例によって『九州遺産』を参考にしています。この本はもう写真が素晴らしいのと、キャプションが平易でありながら対象への情熱をおさえた語り口で、読めば読むほど行きたい場所が増えていくおそろしい本です。九州に生まれてよかった!

九州遺産―近現代遺産編101
砂田 光紀 国土交通省九州運輸局 九州産業・生活遺産調査委員会
弦書房
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こういう本の近畿版とか関東版でオススメのものがあれば教えてくださると嬉しいです。


佐伯 -a set on flickr-

*1:最近マカロンに興味津々

*2:「かっぱ黄桜かっぱっぱの人だよね?」「違う。『チンコロねえちゃん』や」という会話アリ