文一総合出版
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本が売れない時代である。昔は出版社が「節税のために」めくるにも一苦労の巨大で豪華な昆虫図鑑を作り、執筆陣はガッポガッポと印税をもらったなどという夢のようなエピソードもあったそうだが、今や虫の図鑑や昆虫写真集の編纂はほとんど手弁当に近い状態で行われ、一般向けでも初版も3千部くらいあればまあいいほうだ。出版社の人も「虫…虫ねえ…」と首をひねることが多く、企画はなかなか通らない。
そんな中で、挑戦的とかそんな生易しい言葉では語れないなんかすごい本が出てきた!というのが正直な感想。内容はもうタイトルのとおりで何も説明を加える必要はない。めくってもめくってもおっさん(森上さんすみません)の自撮りwith昆虫。
ミヤマクワガタの交尾をジャマして「もうあっち行ってよ!」と言われるおっさん。
洗面所にあらわれたアシダカグモと自撮りするおっさん。
夜の公園でセミの羽化を応援するおっさん。
この本を見せた人に「この出版社は自費出版系なの?(ふつうの出版社でこの企画が通るのか的な意味で)」と訊かれたが、文一総合出版はれっきとした自然科学系出版社で『イモムシハンドブック』などのフィールドに持ち出しやすいハンドブックシリーズは商業的にも成功しているようだし、季刊誌『このは』も自然に対する視点がつまったいい雑誌だ。森上さんだってアニマ賞を受賞したれっきとした昆虫写真家で、写真絵本『オオカマキリ』などのちゃんとした(すみません)本をたくさん出されている。
『虫とツーショット』のカバーの袖には、こう書いてある。
2013年の秋、「selfie」(セルフィー・自撮り)という言葉が、その年の、英語版"流行語大賞"に選ばれました。
「自撮りブーム」は、その後もどんどん広がり、今や、世界的な現象になったと言えるでしょう。
思わず「流行と自信マンマンに絡めてくんのやめろしーーーー!!!!!」と叫んでしまうが、躍動する昆虫写真家と昆虫そのものの生命力があいまって、なんとなくめっちゃ楽しそうな本に仕上がっているのがすごいところだ。というかだいぶくやしい。わたしだって旅日記を書いていた昔から、昆虫やカメをわしづかみにしてツーショットしてきたのに…ッ!
自撮りに使う機材や方法を紹介するページはあるが、一眼レフにシャッターリモコンは子供にはちょっと敷居が高い。森上さんに続いて自撮りを敢行してくれる老若男女はどれくらいいるだろうか。読者層がまったく読めない感のある本だが、とにかくたくさん売れてほしい。こんな本が出ること自体が出版界にとって明るいニュースだと思うし、人目を気にせず楽しそうにしてる老若男女が世の中にあふれることで世界がどれだけよくなるか知れない。