沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

黒いポンポン



西日暮里の「屋上」で、マメコ商会のワンピース販売会のお手伝いをした。
「屋上」は友人の飲み会でお会いした人がチームで運営している拠点で、元はスナックだった物件なのでカウンターで飲食もできる。お客さまは試着のかたわら、おつまみやドリンクを楽しんで帰っていった。
試着室はいつもイベント会社からレンタルしているが、お店の扉からの搬入が難しそうだったこともあって、マメコ商会の常連にして頼もしい友人たちが前日から準備してくれたもの。この試着室からワンピースを着て現れるたび、ボディビルの大会ばりに「素敵!」「似合う!!」と店じゅうに歓声が響く圧の強い空間になっていた。マメコ店長がパターン制作に腐心しただけあり、ぱっと見には着る人を選びそうな鮮やかな色の開衿ワンピースがさまざまな年齢・身長・体型の人に不思議としっくりくる。

家に泊めていた姉たちを見送ったあと、夏風邪で声がまともに出なくなり、飲み会の予定もキャンセルする。
人の多い場所に居たあと気持ちが沈むのはもう慣れて予測がついているが、何をしていても「うるせ〜!」という気持ちになってほとほと参る。ほんとは一か月くらい山寺に篭りたいが、それでも仕事はたまっていくばかりであるし、すべき仕事がなければなおのこと病むだろうから実際ありがたいのである。頭の中で小さなチアリーダーが黒いポンポンを振り、ニコニコしながら「くたばれ💕くたばれ💕」と叫んでいる。でも大丈夫、くたばるのはわたしではなくわたし以外のみなさんです。


製材所に持ちこむことにより無事キッチンに置けた棚を眺めて、心をなぐさめている。製材所の方々がとても親切にしてくれたのも、良い思い出として心に刻まれた。400円で杉板をカットしてくれたのに100円くらいしそうなペットボトルのお水までいただき、手土産にゼリーを持っていってこんなに良かった……と思ったことない。
アルコールは常に気持ちを上げてくれるとは限らないが、自分のものがあるべき場所におさまっている眺めは、すさんでいるときも確実に「快」のポイントがたまるのでえらい。フル充電を100の状態とすると、一回0.1ポイントくらいだけど。

友人とやりとりしていたら「あなたを見ていると舞城王太郎の『熊の場所』という短編を思い出す」と言われ、Kindleで読んでみる。言いたいことはすごくよくわかる。それがどんなに愚かに見えても、人が恐怖を乗り越えるには、熊のいる場所に戻らなければならないのだ。