沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

古代メキシコ展の週末

土曜は4時に起きて病院での大腸カメラ、帰宅後は工務店の人と窓の改装の相談、さらに本棚の整理をすすめる。
日曜は磯に行くか東博の古代メキシコ展に行くか迷ったが、磯で長時間活動すれば即座に熱中症になりそうな暑さのため東博を選択。来年行く予定のグアテマラではティカル遺跡も訪れることになりそうなので、予習としてもちょうどいい。東博に来るのは昨年のポンペイ展以来。
カメラの準備をしていて、E-M5とTG-6の予備バッテリーを入れたポーチをまるごと失くしているらしいと気づいてショックを受ける。さらにバッテリーをネットで注文しようとしたら、TG-6のバッテリーはオンラインストアでも販売終了していてさらにショック。TGシリーズは水中撮影できるコンデジとしては他に選択肢がない状態なので、このまま後継機が出ないなんてことになるとかなり困るな……。
古代メキシコ展はなかなか混雑していた。展示品はすべて撮影可能で、夢中になって撮っていたら第一展示室だけでバッテリーがなくなってしまう。予備バッテリーがないのでやむなくスマホで撮影。

マヤ文字の碑文。中国や日本の書道と同じく、当時はおもに紙に筆で記し美しさを追求するものだった。近年急速に解読が進みつつあるそう。

壁に投影されていたマヤ文字の数字が美しくも難しすぎて、わたしが古代の書記官であったら「もうちょっと簡略化していきませんか?」と愚痴ってしまい即座に心臓をえぐり出されていたな……と思ったのだが、実際にはこれは暦や祭祀などに使われる表記でもっと簡略な数字表記もあったと図録に書いてある。そりゃそうか。

アステカ文明のトラルテクトリ神のレリーフ。巻き毛をふり乱して上を向き、火打ち石のナイフを口から突き出している。

マヤ文明の都市国家・パレンケの神殿から辰砂に覆われて発掘された「赤の女王」の豪華なマスクや副葬品。パレンケの重要な支配者であったパカル王の王妃と考えられている。


ショップで図録や面白そうな本を買って帰ったのだが、特に『アステカ王国の生贄の祭祀』がすごく良かった。一時は絶版となっていたが、復刊ドットコムで復刊された本らしい。

メソアメリカ文明に関する展示を見ると、絶え間なく続く戦闘と供犠にウッとなってしまうところがどうしてもある。その血腥さに対する好奇心も個人的には否定しきれないのだが、供儀の風習自体は世界各地に残るもので、単なる野蛮さのあらわれと切り捨てるには人類にとって大きな意味を持ちすぎている。
「アステカの人身供儀は血液によって神々を養うために行われた」、つまり宇宙という時計のような機械を滞りなく動かすために血液が必要だと考えられていた、というのが近年の定説「《機械》のアナロジー」である。しかしアステカ供儀には「神々から人間が血を頂く」という側面も存在し、生きものも天体も大地も同じ血液を分け合うひとつの巨大な生命体の一部であり、人間がこの生命体から血を頂いて返すことがなければこの世界そのものが死に至るという「切実な感覚」があったのではないかと説く──あれだけの畏怖や捧げるという行為の痕跡を見たあとでは、たしかにそれくらい確固とした世界観が共有されていたのかも……と思えた。
幾度となく読んだ佐藤究の小説『テスカトリポカ』に通じる部分もたくさんあって、またあらためて感想を書きたい。