沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

部屋に希望の灯を点す

仕事上はなんとなくイベントが少なく平和な週だった。その分やらないといけない作業が溜まっていて、どこか鬱々としている。そんな中で通信講座の説明会を受けてみたり、いややっぱり違うな、と思い直したり、上映終了が迫っていることに気づき『ヴァチカンのエクソシスト』を観に行ったりした。日本では思ったより興行収入が健闘して上映期間が延びていたらしいが、危ないところだった。
「悪魔祓いの神父がスクーターに乗ってるところを観たい」くらいの軽い気持ちだったが、エクソシストものを一切観たことがない初心者でもわかりやすく楽しめるいい映画だった。祓魔のシーンもかっこいいし、ある登場人物の成長と変化も良い。悪魔憑きか心の病気かを注意深く見極めつつ、人を救うためにジョークを飛ばしながらフラットになすべきことをする神父の姿勢も素敵で、たしかにカリスマ性がある。底本となった『エクソシストは語る』を読んでみたかったのだが、古書が高騰しているので島村菜津『エクソシストとの対話』をちょっとずつ読んでいる。こちらにも映画に通じる悪魔憑きの事象がたくさん出てきて興味深い。

インプットに貪欲になっているのは、人と会う機会を絞っているのに加えて精神が元気になってきている証拠なのだろう。書いているものは進まないが、起きてしまったつらいことを書くのは果てしなく巨大な円をずっと地面になぞって歩いているようなもので、ある意味単純作業なのだが円が閉じるまではずっと苦しい。人に読ませるならもっとスマートな円を描くべきなのだが、これは創作物というよりは吐瀉物なので、まずは大きな円を描ききってから考えることだと割りきる。

土曜は休日出勤したが焼石に水……。
日曜は朝からコミティアのための発送、宅本便の発送と餌コオロギの受け取り、その間を縫って家のあちこちをいじる。




引っ越してくるまでは前の家よりだいぶ広くなって管理しきれるか心配だったが、掃除はむしろしやすくなっていて、ものの配置や動線を考えるのが楽しい。これがリアル箱庭療法か、と考えながら、吊るしたいものに穴を開けたりねじを留めたりしている。
棺桶の横の「希望」のネオンサインはAmazonで売っているやつで、数年前から欲しかったもの。ボルタンスキーを思い出すと複数の人に言われましたが、棺桶の横にあるとたしかになにかの現代アートっぽいね……。
マンドラゴラについてZINEに小話を書くことになっていて、その参考文献を探しにジュンク堂池袋店に行く。池袋駅にはかなりヤバめのぶつかりおじさんがいると聞くので、自分もガンガゼになったつもりで心して歩く。
ひさしぶりの大型書店に心が踊り、そして新居の本棚にまだ余裕があるという慢心から、9階から1階まで練り歩いたあげく図録や図鑑を抱えて帰宅。理工書フロアでは出版事業から撤退した東海大出版会のお蔵出しフェアがあり、悲しく思いつつも勇気を出して『日本産魚類生態図鑑』を買った。重めの図鑑を買うたびに「どうせ使いこなせないのでは…」と不安に駆られるが、探すころには高騰していることが多すぎるので買わずにはいられない。

買ってきた本もそこそこに「マンドラゴラといえば……」と、宮田珠紀『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』を読み通す。あらためてめちゃくちゃ面白くて、この薄曇りのような明るさと飄々たる様が宮田さんのお人柄そのものだなと思う。
ZINEに書こうと考えているのはもっと陰惨な話なのだが、いつかはこういう、うるさくないのに陽気さに満ちたものが書けたらいいな。