沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

おもバザ・文フリ出展のお知らせ/由布院行

イベント出展のおしらせ

11月は同人誌即売会にふたつ出展します。

① おもしろ同人誌バザール 11/3(金祝)@ベルサール神保町・ベルサール神保町アネックス

​11:00~16:00 入場料 1000円

ブース名:「も-26 沙東すず」

『昆虫大学シラバス』黎明編・乱世編を持っていきます。

また、文フリ用の新刊『奇貨』についても、試し読み冊子を準備しようと思います(配布できるかはまだ不明ですが、立ち読みは可能とする予定です)。

hanmoto1.wixsite.com

②文学フリマ東京37 11/11(土)@東京流通センター

12:00〜17:00 入場無料

ブース名:「G-28 沙東すず」

文学フリマでは新刊のエッセイ『奇貨』を初売りします。同じ島のワクサカソウヘイさんのブースで販売されるZINEにも寄稿しています。
『奇貨』の内容および寄稿についてはあらためて紹介記事を書く予定です。
むりやり読ませた人たちには「面白い…と感想を言ってしまっていいのかな?」と言われがちなのですが、渾身の内容になりました。わたしのこれまでに書いたものの中でいちばん好き、あるいはいちばん嫌いという人が多いと思う。ぜひおたちよりください。

bunfree.net

 

由布院行

10月下旬、実家のある別府に帰省した。両親の金婚式をやろうというので、ひさしぶりに父と母、そして四人の娘と、末の妹の三人の子供たちが集結することになったのである。

沙東家は記念日やセレモニーのたぐいにかなり無頓着なファミリーなのだが、父も80歳を迎え、両親の結婚50年という節目の年なのでお祝いしよう。せっかくなら別府から山を越えたところにある由布院温泉の旅館に一泊しよう、と、おもに長姉の提案で話が進んだのでした。

金曜の夜に実家に着いて一泊したが、家に4匹いるはずの猫たちは怯えあがって隠れてしまい、ほとんど姿を見ることがなかった。昔はこの家にも甘えてくる猫がいたのだが、あまりにも観測不可能なのでわたしにはもう顔と名前が覚えられない。この家の猫は仕事をしない。ただの野良猫が家の中で安穏と暮らしているだけ!!

 

土曜に起床後、由布院の宿のチェックインにはまだ間があるので妹は子供たちを志高湖に連れていき、上の三人は父と姉の運転でドライブに行く。二番目の姉も運転を練習している。この家でペーパードライバーのままなのはついにアタイだけ…。

由布院をいったん通りすぎ、九重連山の入り口である長者原という高原へ。別府よりもかなり気温が低く紅葉はすでにピークを迎えており、登山好きの長姉は山を眺めて登りたそうにしている。長者原には一面のススキがそよいでいた。

この辺にも子供のころはよく父に連れられて来たはずなのだが、車で連れまわされているだけだと土地勘はまったく育たないものである。高原ソフトクリームを買ってもらうとかならず吐く子供を、よくあんなにドライブに連れ出してくれたものだ。

家に戻り、由布院に向けて再出発する。泊まったのは金鱗湖のほとりにある「亀の井別荘」という宿。由布院の中でも由緒ある宿で、別府を一大観光地にした油屋熊八という実業家が特別なお客を招くために建てたところ。実際に草庵を任された中谷巳次郎は加賀の庄屋の生まれだったが、趣味人が過ぎて財産を使い果たし、流れ着いた別府で熊八と出会ったそうです。趣味が身を滅ぼし、趣味が身を助ける。ちなみに中谷巳次郎は雪の研究者・中谷宇吉郎の叔父にあたり、宇吉郎は「由布院行」という随筆も書いている。

www.aozora.gr.jp

まだ深閑としていたころの由布院の風情が偲ばれる。いまは車を寄せるのも大変なほど観光客がひしめき、表通りには謎のキャラクターグッズのお店が並んでいます。

しかし旅館の広大な敷地はうそみたいに静かで、外の世界と隔絶されていた。単に広いからというだけでなく、由布岳の借景も含めて計算し尽くされている様子。さすが趣味で身代を潰して興した人間のすることはスケールがでかい。宿泊のお値段もまあ大変なことに。ふだんはがつがつ観光するため宿にはお金をかけない人たちなので、いろいろと別世界で新鮮だった。

我々がため息をつきながら受付をすませ、出されたおはぎを食べていると建築オタクの母が調度品を眺め「…これは清朝の壺やな」。その後も入念なしつらえチェックは続き、最終的に「アンタらにはこの違いがわからんかのう」と言っていた。これは母としては最大級の賛辞。賛辞なのに怒られが発生しとる。

文豪向けスペースを発見したので、ゲラを読む(ふりをする)などした。

ふたつの離れに分かれて泊まったのだが、それぞれが広大すぎたので9人全員がひと棟に泊まれた気がする。しかし間取りが贅沢すぎてそうならないのが老舗旅館。

粋が過ぎて、ポットやコンセントなど生活感のあるものがすべて見えないところに隠されており、まあまあ探した。スマホのケーブルを挿したはずがコンセントから抜けているという怪現象もたびたび起き、「粋人の呪いでは?」と話す。たしかに巳次郎はコンセントの存在を許せなさそう。

茶化してばかりいますが、ほかの宿泊客とほとんど顔を合わせない凝った造り、お庭のみっしりした苔や大きく育った樹木の時間の経過を感じさせる美しさ、さりげなく飾られたアフリカの仮面など、とにかく美意識が高いお宿だった。写真には写りづらい厚みがあった。

お庭で一同で記念写真を撮ったが、甥っこ姪っこたちはまだ写真をありがたがる歳ではないため大暴れしていた。家族旅行や記念写真、子供のときはまったくありがたみがわからんよな…。

お夕食に用意してもらった広間で、星飛雄馬のクリスマス会みたいな写真を撮られて爆笑する文豪。

夜は同じ敷地内のバーに一杯飲みに行き、翌朝ちょっとだけ由布院を散策して地元のお酒などを買って帰った。甥姪たちは解散間際にやっと心を許してくれた感があったが、次に会うときはまた初期値に戻っているのだろう。

由布院は実家から近すぎて、よく遊びには行くが泊まるのははじめてだ。金鱗湖に流れこむ小川で川魚をすくってきて飼ったり、夜ホタルを見に行ったりした思い出がある。亀の井別荘と同じ敷地にある土産物屋は、むかしはアジアや中東の古い雑貨を扱っていて、子供心にわくわくする場所だった。

懐かしくも新鮮な気持ちになる家族旅行でした。父は「毎年来ようか!ウフフ」と言っていたが、来年はグアテマラ探鳥旅行ですよお父さん。