もともと2020年の四月に上海から日本に帰任することになっていたのだが、その準備もかねて春節に日本に帰ったところ、コロナ禍がはじまって今度は中国に戻れなくなった。他の出向者が業務を回すために上海に戻っていく一方で、帰任間近のわたしはそのまま本社にとどまることになり、結局中国で一緒に働いていた人たちにあいさつもできないまま、引っ越しさえもリモートで済ませることになったのだった。
帰任後も海外出張は(とくにわたしの部門は)しづらい状況になり、しばらくお預けに…という状態が四年も続いてしまったが、今週ついに一週間出張してきた。二年半を過ごしたオフィスで、同僚たちがとてもあたたかく迎えてくれた。
忙しなくて充実した時間だったが、いよいよ最後の報告会を終えて明日は帰国するという夜だけは、なぜか動悸がして眠れなかった。
駐在して特に悩みが多かったころ、体に起きていた症状。横たわっていると心臓が喉のほうまで上がってくるように大きく響いて、つい呼吸が浅くなってしまう。
思えば当時、恋人になる前の彼がなんとなく気になる存在になり、一気に惹かれあい、旅先でつきあいはじめる前もよく起きていた症状。またこの春、いきなり裏切られたあとも。
当時感じていた重圧、そしてそのあとはじまったコロナ禍の先が見えない暗さに支えられていた関係だったのだな、と、謎のリズムで跳ねる心臓を抱えて思った。
リモート引っ越しでこの形状のためか業者さんに運んでもらえず、現地オフィスで預かってもらって、四年越しで新居にやってきたライトスタンド。上海の旧市街にあった雑貨屋で買ったもの。
明日(今日)の文フリで新刊『奇貨』を販売します。各方面に大丈夫なのかと思われている気がしますが、『奇貨』のゲラを裏紙にして、めくるたびに「怖えこと書いてあるなあ…」とひとごとのように思うくらい元気です。人にはおすすめできないが、そういう乗り越え方もある。
自分から見た現実を自分の中で捉え直して書きつづる作業は非常につらいものだったが、ゲラになった瞬間、起きたことがひとつ遠い次元に遠ざかっていった。編集者の田中さんに鉛筆を入れてもらい、デザイナーの畑さんに整えていただいた装丁にテキストが載った時点でスイッチが切り替わった。関わってくれた方にとっても実際やりにくい仕事だったと思うけれど、人となにかを作ることにはそういう作用がある。
11/11(土)に流通センターで開催される文学フリマ、【G-28 沙東すず】でお待ちしています。後日、通販についてもお知らせします。会場ではじめて現物を見るため、関係者への献本については文フリ後となりますがご容赦ください。面白いです。
【G-23】ワクサカソウヘイさんのブースで販売される『園芸グランドスラム』にも、マンドラゴラをテーマにした奇譚「絶叫草」を寄稿しています。面白いです。
さらに食虫植物愛好家の木谷美咲さん、ワクサカソウヘイさんとの、恋の終わりについての鼎談も掲載されています。最後は中年が創作においてどう「飽き」と向き合うか?という議論になっていく。面白いです。