沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

きつねにつつまれたくない

仕事をしていてきつねにつままれたような気持ちになることがあったのだが、いつも「きつねにつままれた…つつまれ…?つつまれたような…?フフ…」と一瞬考えてしまう。きつねに首のあたりでファサーッとつつまれて焼いたパンのような香りを吸いこんだら、化かされたようにすべてがどうでもよくなってしまうだろう。と、以前はそんな妄想をしていたが、もういい大人なので野生動物と触れ合うリスクについて知ってしまっている。エキノコックス、狂犬病、そしてダニの恐怖。
酔っぱらいが路上で寝ていると野良猫やたぬきが寄り集まってきて暖を取るので釈迦涅槃図みたいになれることがある、と昔ネットで読んだが、その酔っ払いはあとで謎の全身のかゆみに苦しんだのではないだろうか。やはり、きつねにはつままれるくらいがちょうどいい。

上絵付の教室に通いはじめた。なにか没頭できるものを探そうと思い立ったときに目に入ったのが九谷焼だった。もともと陶芸には興味があったが、器の世界は広いだけに好みが分かれる。磁器の硬質さと上絵具の華やかさが好きなのだとやっと言語化できた。無心になれそうなところも良い。
体験教室では先生の骨描き(呉須で描いた線画)に上絵具を置いて焼成してもらう。先生の引いた線がバキバキに決まっているので、上絵具の盛りがおぼつかなくてもそれなりに栄える。ガラス質の粉が原料だから、焼いたあとに色が一変して透明感が出るのだということも実感できた。
先日は教室の初回で、いよいよ骨描きに挑戦。いきなり呉須で描くのかと思っていたが、下絵を器に写す段取りがけっこう大変。筆を置いてから小さく矯めることで筆先まで呉須が下りてきて、掠れのない線が引けるようになるのだが、幾何学文様の直線を引くのが本当に苦手。漫画家のアシスタントはまず入りと抜きのしっかりした直線を引けるようになるまで何度も練習させられる、という話を思い出す。自宅で練習するしかない。石畳柄の骨描きがあまりにグズグズだったので、そのあと取り組んだ椿の柄はとても楽しかった。

いずれはきつねにつつまれた人とたぬきにつつまれた人を描いたお皿を作りたい。マンドラゴラやアステカ文明、稲生物怪録や冬毛のライチョウをモチーフにしたお皿なども作ってみたい。
九谷焼は行程ごとに専門化されているのでいま習っているのは上絵付だけなのだが、いつか自分で焼いたお皿に絵付できるようになりたい。滋器の土を使える陶芸教室もまあまあ少数派なので、がんばって探してみます。