沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

根暗の杖

ちょっとずつ気分が上向いているが何事も成していない、という日々が続きます。まあでもそれくらいの焦りがあったほうが、あとから見れば少しずつ進んでいたということも多いですよね。
イベントのあとには毎回落ちこんでしまう、という話を友人にしたら「自分も毎回そうです、これが麻痺しちゃうと、ハレをハレで洗うことしかできなくなる貧しさに陥っちゃったりするんだろうから、我々は健全そのものですよ!」と励まされる。中年になっても落ちこみやすいのは変わらないが、たしかにすこし慣れてきた気がする。いきなり立ち上がろうとするのではなく、寝返りから上体だけ起こそうとするしぐさ。


「哀れなるものたち」を映画館に観に行こうと思い、予習のつもりで「女王陛下のお気に入り」を配信でひさしぶりに観なおす。かなり好きな映画。それぞれがその立場ならそうするだろうということをした結果、わりと最悪になる話が好き。
「哀れなるものたち」がこれを超えるかはわからない。前評判を見る限りではここが気になるかもな、という部分がある。ここが気になるかもな、が多すぎて、評判がよくても映画館に行けない映画が無数にある。
12月には「首」と「トーク・トゥ・ミー」を観て、どちらも映画館で観てよかったなと思えた作品だった。北野武のシニカルでペシミストだけど、決して冷笑的ではないところが好き。「トーク・トゥ・ミー」では、トラウマを抱えた人間が濡れた服のように周囲に貼りついて行って煙たがられる描写をことさらリアルに感じた。


それはないだろう、という話を三件くらい立て続けに聞いて、げんなりする自分とすこし奮い立っている自分がいる。喜びや向上心よりも、怒りやこうはなりたくないという気持ちのほうが自分を起たせてくれる。逆の人間になってみたかった気持ちもあるけれど、根暗も突き詰めれば杖にはなる。
直接巻きこまれずに済んだのは『奇貨』を書いたからかもしれない、と思うことがあった。怒らせたら何をするかわからない人間だと思われることで舐められずにすんだのだとしたら、まさに「ジャンプを腹に巻いていたので刺されても生きてました」みたいな体験だな、と思った。腹に奇貨を巻いていたので無事でした。