沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

日記(2024年7月1日~2024年7月7日)

2024年7月1日 月曜日
なんとなくスーパーで高めのお刺身を買う。田辺京子さんのお皿にのせたら、ただそれだけで美しいこと…!

phaさんの本『パーティーが終わって、中年が始まる』への反響がよく流れてくるのだけれど「自由な生き方を標榜していた人間が中年になって夢から醒める」というストーリーはある種の人間、つまり自分はアリとキリギリスのアリ側だという自認の人たちの溜飲をすごく下げるらしい。逆に言えば、そういう感想が寄せられるのが予想できる状況で正直に喪失感を吐露できる素直さってすごいなあと思う。
その一方でわたしは中年になってどんどん自由になっていく部分もあると感じていて、パーティーが終わったとは正直思えないのだった。「生理が終わって、パーティーが始まる」みたいな感覚の女の人って多いんじゃないかな。ミレーナ入れてるので適当言いますが。更年期障害は怖いけど、老眼はじまったら遠近両用ICL入れるぞ〜と思っていて、ちょっと楽しみでもある。せいぜい健康と運動に気をつかって、意地汚くパーティーを楽しみたい。

2024年7月2日 火曜日
午後はあまり会議がないからまとまった作業するぞ〜、と思っていたが、細々した用件でつぶれる。もう一生まとまった時間はないのかも!!つらいよ〜!
アマゾネスになりたい女三人のLINEグループがあり、誘いすぎかも…と遠慮がちに「来週飲まないゾネ?」と送信すると「行くゾネ〜!」「ゾネ〜」と即レスが返ってきてありがたい気持ちになる。大金持ちになったら地中海の島にアマゾネスたちで移住し、アゴラで珍しいウミウシを自慢しあったりしたい(世界観がヒストリエ12巻の影響をもろに受けている)。

2024年7月3日 水曜日
届いたsurfaceのセットアップをしてみたら、Win11はMicrosoftアカウントでログインしないと立ち上がらないようになっており(リテラシー高い人用の裏技はあるらしいが)、なんて邪悪な仕様なんだ…と震える。使う喜びから遠く離れたインターフェースのくせしてGoogleやAppleっぽい挙動をちょいちょい入れてくるのもいちいち腹立たしい。デスクトップに勝手に広告を出すな。おまえにオシャレさは期待しとらん!もっと仕事に役立つ質実剛健な感じにしてこい!
会社の研修で、部署のみんなで他県の施設に一泊する。午後から到着してワークショップをやったあと、手違いで夕食が手配されていないことに気づいたが、タクシーで居酒屋に行くことに。しかし買い出しや後片付けから解放されてみるとかえって気楽で、結果オーライでした。
居酒屋からコンビニに寄って宿泊施設に戻り、飲んでいて気がついたら1:30だった。いまの部署はほんとに人間関係にストレスがなくてありがたい、という気持ちと、わたしがストレスがないってことは若者が気をつかってくれてるのよ…!気をつけて…!という気持ちで、心がふたつある〜。

2024年7月4日 木曜日
遅くまで飲んで話しこんでいたので頭がズキズキする。午前中でワークショップを終え、みんなでお寿司を食べて帰路につく。楽しかったんだけど、はしゃぎすぎてなかったか不安だ。こういう不安感もアルコールによって生み出されるものだとどこかで読んだことがある。
帰路で蓮舫の応援をしている人たちを見かける。チラシか何かを渡されそうになって咄嗟にスルーしてしまったが「蓮舫さんに期日前投票しましたよ、がんばってください」と声をかければよかったな。
性暴力を扱った映画を撮るのに、主演女優にインティマシーコーディネーターをつけてほしいという要望を却下した、という監督の談話が炎上している。インティマシーコーディネーターは女性俳優だけでなく男性俳優にとっても大事なものなのに、という意見を読んで思いだしたのたが、「娼年」という映画のセックス描写はめちゃくちゃひどかった。犬くらいハアハアいってて興醒めなのはともかくすごく痛そうで、仮に100点満点で評価するとしたら2点だった。それで娼館の女主人が「あなたのセックスは五千円の価値しかない!落第!」みたいなことを言うのだが、一万円が及第点で5千円もらえたことに「なにかの間違いでは?!?!?!」となってしまい、逆にちょっと面白かった。5千円クラスのセックスがこのあと主人公が成長していくのでマシになっていくのかと思いきや、見るかぎり2点のままだった。役者の心とキャリアの傷になっていないかが心配な作品。

2024年7月5日 金曜日
Twitterのエコーチェンバー度が最近また一段と上がって、脳の報酬を与えすぎたらいけない部分を箸でクチャクチャいじられている気がする。おかげで攻撃性が高まり、燃えようのなかったはずの話題で燃えてしまう人も見かける。
こんなときこそ磯に出よう、というわけで今日は仕事を早めに上がって千葉でワクサカさん宮田さんと合流し、明日の観察会に備え一泊することになっている。磯の道具が多すぎて、防水リュックに網をさしてスーツケースで出社するありさま。今週ろくに仕事してなくて罪悪感があるが、せめてバリバリとメッセージなどに返事する。
16時に会社を出るが電車を乗り間違え、さっそくピンチ。なにしろ房総は遠い。なんとか別ルートの高速バスを確保した。木更津行きのバスにものすごい人が並んでいて、これは無理なのでは?と思ったがびっくりするくらい多くの人が座れるものですね、バスって。
青堀駅でワクサカさんたちと落ち合い、タクシーで宿に向かう。古墳とイオンモールと火力発電所と製鉄所のある町。この磯友たちとは八丈島、そして足摺と津々浦々の磯に行った仲ですが、房総でも十分すぎるくらいの夏休み感がある。
イオンモールの手前に中華屋があるのを見つけて腰を落ち着け、レバニラや海鮮あんかけチャーハンなどを頼んで飲み食いする。
ワクサカさんのまわりで流行っているという、散歩しながらクエストするアプリをインストール。宮田さんの趣味が散歩なのは知っていたが、散歩ログを見せてもらったらものすごい広範囲に線がのびていた。同じ道を歩いてもつまらないから、わざわざ電車でよその街に行って歩き倒しているらしい。散歩の概念が再構築される。わたしが散歩をいまいち趣味にできてない理由のひとつがまさに「同じ道を歩いてもつまらん」なのだが、そういう散歩ならアリかもしれない。
21時にお店が閉まり、コンビニでいろいろ買い出ししてワクサカ部屋で飲む。ワクサカさんはタイでわたしの姉と虫観察をしたり、マレーグマに追いかけられそうになったのが超楽しかったそう。あとワクサカ五行説というのを唱えはじめ、「メレヤンは火!しかも一見燃えてないけどクッッッソ熱い炭!!!!!」と言われる。それ一酸化炭素中毒とか起こすやつじゃん。
22時半に解散し、それぞれの部屋に戻る。大浴場は男女に分かれておらず、鍵がかかるとはいえちょっと不安だったのだがいいお湯だった。ワクサカさんが事前に偵察して「今なら誰もいませんよ!」とラインをくれたのも細やかな心遣いでした。おかげで快適に就寝。

2024年7月6日 土曜日
食堂でホテルの朝食をいただく。お客さんは出張で長期滞在している人たちがほとんどらしい。朝ごはんらしい朝ごはんはひさしぶりで、思い出すのは一昨年の八丈島と昨年の足摺。つまり、この磯友メンバーとの朝ごはんがわたしにとってほぼ年一回のちゃんとした朝ごはんってことです。
天気予報を見るかぎり、とんでもなく暑い日になりそう。予約したタクシーで、集合場所である海岸駐車場へ。
駐車場には潮干狩りの家族連れがたくさん集まっているが、我々はアサリやハマグリには興味がない。今日のイベントの主催である磯結社の人々に声をかけ、参加登録をする。配られた紙には「今日見られそうな生きもの」が書いてあり、ミミイカ、ヒメイカ、タツノオトシゴなどを見ているとおれたちの夏がはじまった…!!という気持ちになり、「高まる~!」とジタバタする三人であった。
時間になり、注意事項など説明を受けたあと干潮の浜へ。潮干狩りする親子連れの向こうに、多くの人が見向きもしないアマモの生えた砂地がある。ここが小さなイカやカニやハゼを育んでいるのだそうだ。

二時間ほどかけて、最干潮に向かう浜で生きものを探す。ワクサカさんと宮田さんはシュノーケルだが、わたしは写真を一眼レフで撮りたいので膝くらいまで海につかる装備。暑さは厳しいが、海に入るとかなり楽になった。
緑色にそよぐアマモは美しいが、生きものはなかなか見つからない。最初の30分くらいは何を見つけたらいいのかもわからずただ歩きまわる。はじめて見る生きもの探しは、いつもツチノコと同じくらい半信半疑。
コブヨコバサミやタイワンガザミなどは目につくようになってきたが、今日のお目当てのイカが見つからない。まず宮田さんが「メレヤーン!」と叫んで、急いで向かうとなんか小さな透明感のある生きものがピロピロ泳いでいる。世界最小のイカ、ヒメイカだ。しかしわたしのタモ網の目が大きすぎて取り逃がす。最初からエビ網で狙わないと駄目っぽい。
そのあと、ワクサカさんが採ったヒメイカをケースに入れて観察。思ったよりかなり小さくて華奢な印象!こんなに儚げなのか。

八丈島に行ってからこのかた、友人たちに生きものを採ってきてもらうときは「ミナミハコフグ、とっておじゃりやれ!」などと命じがち。しかしおじゃったあとは自分でもなにか見つけたいのが人情。アマモ場を歩いていると、ついに横に広い感じのイカが登場。コウイカの赤ちゃんらしい。小さくても長老みたいな顔をしていて、ケースに入れた瞬間墨を吹く。くるくる変わる体色も超キュート!

ひとしきり近くにいた人と写真を撮ってから放してしまったのだが、潮が満ちてくる時間になったら採ったものの説明会も軽く開催された。いつもできるだけ採った場所に戻すようにしているので、お披露目に連れていけなくてすみません…。
「最干潮で部分的に水の流れが早まったアマモの切れ目をじっと見ていると、小さな生きものがスーッと流れてくるのが見えますよ」と教わり、「生きもの交差点だ~」とはしゃぐ我々。砂地に立ってアマモを見つめるも、しばらくして「『人間交差点』って…それは交差点ですよねえ!!」といきなりキレだすわたし。
最後に採った生きものをリリースして、集合写真を撮って散会。結社の方々は気さくに話しかけてくださり、とてもお世話になった。タツノオトシゴはワクサカさんが一度目撃したのみで、宮田さんは見られなかったのを残念がっていた。ミミイカも見たかったな。また来年来ましょう。
潮干狩り場の温水シャワーを浴びて、タクシーで駅に移動。駅前のお店は軒並み閉まっていて、10分ほど歩いてたどり着いたお店は海鮮居酒屋のはずが中華屋に鞍替えしており、二日連続中華を食べることになったが感じのいい店だった。ラーメンにビールで乾杯し、この夏の磯予定を互いに確認したりする。
帰りの電車では宮田さんは後半ずっと寝ていてわたしとワクサカさんはおしゃべりしていたのだが、房総半島を永遠に出られないかもと思うくらい千葉は広かった。
家に帰って着替えや磯道具を洗う。今週は移動の多い週だったので、ちょうど届いた首をほぐす装置(MYTREXのMEDI NECK)を試してみた。最初は5分くらいから徐々に試すといいと書いてあるのに、いきなり15分プログラムをやってしまう。首を伸ばしたり電気を流したり温めたりする装置で、たしかに首が楽な感じがする…と思いながら就寝したら金縛りに遭った。たぶんさまざまな活動で疲弊したところに首だけがほぐされて、体の指揮命令系統がおかしくなったのだろう。しかし電気でほぐされるのは気持ちよくて癖になるかも。顔・腰・ふくらはぎや腰などもほぐしたいがどれもいっぺんにやってくれる機械はないものか…と思いながら眠りにつく。長い長いすてきな一日だった。はじめて見る生きものに会えた日は、いつも幸福感が持続する。

2024年7月7日 日曜日
棺桶部屋にエアコンを取り付けてもらう工事の日。工事は三時間くらいかかるとのことで、書斎でグアテマラの写真を整理する。なにしろ16日間の写真が2400枚くらいあって、それをLightroomで色補正してトリミングして水平を調整して、ハードディスクとQNAPにもバックアップしてGoogleフォトにもアップするという作業が滞っていた。前に6時間くらいやってから中途で終わっていた作業である。どこかに出かけるのは楽しいが、写真の整理が宿題のように重くのしかかってくる。たぶんどこかで何かを間違えている。
午後の眠気も、室内に人がいるという緊張感で乗り越えた。赤の他人がいてくれたほうが捗る現象をうまく利用できないものか。
あまりに外が暑くて、取り付け工事屋さんには悪いことをした。これでこの夏、家を有効に使うことができそう。
夕方ちょっとだけ外に出る。都知事選の投票所をのぞくと駆け込みの投票で賑わっていた。完全に日が落ちても、すこし歩くだけで汗だく。
家でさぼっていた線をひく練習を三日分。日記も筋トレも線の練習も、もの珍しさが消えてさぼりがちになっている。特に線をひく練習は二日や三日分まとめてやりがちになっているので立て直したい。
作業しながら配信で「1122」を観る。美月さんの抱えてるものが大きすぎて、一子と二也がすごく呑気に見えてしまう現象。ドラマで描かれる人間って、ものすごく正しい人間でないと反感を抱いてしまうけれど、この人たちってリアルにいたらむしろまともで優しい部類の人々なんだよな…と、映像作品のリアリティラインについて考える。
原作を読んだときも思ったのだが、女性用風俗まわりの描写だけがやけにドリーミー。女性用風俗がさっくり本番OKみたいな描き方は誤解を招く気がするし、お金で買った男の子からすんなり好意を寄せられる展開は都合が良すぎると思う。もしわたしなら「この子、お店を介さずにわたしからお金をむしりとろうとしてるッ!」と思っちゃうんだけど。めちゃくちゃ警戒しながらめちゃくちゃ騙されるタイプなので、わたしはホストクラブとかも含めてそういうサービス産業には近づかないようにしています。
『先生の白い嘘』も、女性教師が男子生徒に手を出す展開は最後まで受け付けられなかったのだった。それはそれで性暴力じゃないのか。男女問わず他人の性欲はキモいし、女性から男性への性欲だって容易に暴力になりうる。そこからは目を逸らしてしまっている描写がどちらにもあると思った。
そんなことを考えながら、イカの写真も整理してシェアするところまでなんとか完了。ヒメイカの写真が儚げすぎて満足度が高い。もっと海に行きたい。